震災で「現代のインフラ」に疑問 古来の土木技術で自然と共生

2026/03/25 17:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 房総半島の最南端に建つ安房神社(千葉県館山市)周辺の山域で、かつて暮らしていた人々が切り開いた古道や棚田、水路など集落の痕跡を再生する取り組みが行われている。土木技術の発展で失われてきた、自然と共生する知恵や技術を取り戻そうという試みだ。各地で大規模土砂災害やインフラの老朽化が問題となる中、古来の技術で土地の復元を進めている。

 木材や石などを使った日本の伝統的な工法で自然環境の再生に取り組む一般社団法人「地球守・有機土木協会」代表の高田宏臣さん(56)=千葉市若葉区=が主宰し、「安房大神宮の森コモンプロジェクト」として2024年3月に始まった。月に1回ほど、森の約55ヘクタール(東西約3キロ、南北約1キロ)で整備活動をしている。

 安房神社は紀元前660年創建と伝わる。地元では大神宮と呼ばれ、背後に広がる山域は神域とされてきた。集落は江戸期まであったとみられる。

 25年末、太平洋に面する森の斜面で整備活動があった。約10人がチェーンソーやカマで生い茂った樹木を切り開いて進むと、斜面を利用した段々畑の跡とみられる石積みが現れた。高田さんは「雨風に長年さらされても崩れたりせず、地形は変わっていない」と話す。

 ◇東日本大震災をきっかけに

 高田さんが古来の技術に触れたのは、学生時代に造園の仕事に関わってからだ。古い日本庭園の修復作業を通じ、コンクリートを使わずに石を組み合わせて池底を作ったり、何百トンもの岩を立たせたりしている技術のすごさを知った。

 石畳などの古道、丸太や岩で組んだ基礎などの土木造作は、水が土にしみ込み、樹木の根が張るなどして周囲の自然環境と一体化し、安定するという。その一方で、ダムやトンネルなどコンクリートで作った建造物が土中の水や空気の循環を分断し、周辺の樹木の立ち枯れやヤブ化を招いて森や山を荒廃させていると高田さんは指摘する。そのため高田さんは、先人の工夫を生かした古来の土木技術を「有機土木」と名付け、普及に取り組んでいる。

 特に現代のインフラに疑問を持つようになったのは、東日本大震災の復旧支援に行った時だった。がれき撤去や植栽のボランティアをしていた被災地では、巨大な高台や防波堤が次々と造成されていった。「森や海辺が荒れ、土砂崩れなど新たな問題が起こりかねない」と危機感を持った。

 震災をきっかけに、環境再生を専門にしていくことに決めた。16年に現在の一般社団法人の前身、NPO法人「地球守」を立ち上げ、各地で環境再生や災害復旧に取り組んでいる。能登半島地震の被災地の七尾市では、液状化被害が起きた土地で丸太や石積みなどを使って地盤を改良した。

 安房神社がある館山市とは、19年の房総半島台風で被害を受けた森林再生でつながりができた。「館山森づくり大使」にも任命されている。

 そんな中、23年に大神宮の森が売りに出ていることを知った。「メガソーラーなどができて、森林が伐採されてしまうかもしれない」と考え、自身で土地を購入することを決めた。土地代は寄付と借金でまかなった。

 整備は古道の復元から始めた。伐採した木の枝や根を使ってのり面を強化し、路肩にはわらと土を入れた麻袋の土のうを使った。麻袋は草木が生えて根が張っていき、自然と一体化していく。重機は使わず、手作業だ。24年春には森の拠点とする縄文小屋を建てた。

 古道の整備が終われば、ウオーキングイベントなども開催するつもりだ。将来的には、棚田での稲作も目指す。

 「土地を購入はしたけれど、所有はしていない」という。皆の共有地という思いからプロジェクトに「コモン(共有)」の名をつけた。「いつか未来の世代に受け渡したい」と望む。

 「現代の技術を否定するのではなく『有機土木』を融合させていきたい」と話す。日本に昔から伝わる土木技術が、人と自然が共生していくためには必要だと信じ、普及を続けていくつもりだ。【小林多美子】

毎日新聞

社会

社会一覧>