北海道でIR誘致の動き再燃 人口・空港利用者数など高い「壁」
北海道内でカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致の動きが再燃している。苫小牧市と函館市が誘致に関心を示し、一度は断念した鈴木直道知事は「北海道らしいIRコンセプトの具現化」を目指して「基本的な考え方」を今秋にも示す方針だ。一方で、施設整備のハードルやギャンブル依存症への懸念も残る。「北海道らしいIR」の行方は――。【後藤佳怜】
IRを巡っては、超党派の「国際観光産業振興議員連盟」が2011年にIR推進法案を公表。道内では13年に苫小牧市、小樽市、釧路市、翌年に留寿都村が候補地に名乗りを上げ、誘致に向けた動きが本格化した。
インバウンド誘客力の強化を狙う道は、18年にまとめた調査報告書で新千歳空港からのアクセスが来客数に重要な影響を及ぼすと試算。高橋はるみ知事(当時)が退任直前の19年4月、苫小牧市を優先候補地とし、誘致の意義やコンセプトを盛り込んだ「基本的な考え方」を発表した。
だが同年11月に後任の鈴木知事は誘致断念を表明。希少なオオタカなどの巣が確認された候補地・同市植苗地区では3年程度かけて環境影響評価(環境アセスメント)を行う必要があり、21年の国への申請期限に間に合わないというのが大きな理由だった。
その後、新型コロナウイルス禍もあり議論は止まったが、23年に道議会最大会派の自民党・道民会議の道議らが勉強会を発足させ、誘致の再検討を始めた。道も25年、政府の調査に「(IR誘致に)関心あり」と回答。道内全179市町村への意向調査も実施し、苫小牧市と函館市が関心を示した。
こうした流れの中で道は今年、有識者懇談会を始動。「基本的な考え方」の改定に乗り出したが、誘致に向けた課題は多い。
北海道は他の大都市圏の候補地と比べ、人口規模や空港利用者数が少ない。先行する大阪圏の周辺人口は1618万人、誘致が検討されている名古屋圏は925万人で、札幌圏の264万人を大きく上回る。IR実施法では、カジノと一体で整備する会議施設や展示場の規模要件が定めれらているが、道内の既存施設では要件に達しない。道は要件緩和を求めることも検討するが、国が応じるかは不透明だ。
懇談会の会合では出席者から「今後もインバウンドがお金を使う見通しはあるのか」「(候補地は)交通アクセスが難しく、地理的な弱みは否定できない」「ギャンブル依存症に関連する自殺や自己破産での生活保護など、コストが十分に計算されていない」などと懸念の声が上がった。
国は、既に計画を認定している大阪府・市以外に最大2カ所、整備地域を追加選定する方針だ。道観光振興課の担当者は、「大都市圏と異なる道ならではの立地環境をふまえて検討を進める。依存症などの社会的影響対策も議論を深めたい」としている。
◇ギャンブル依存症「予防教育強化を」
IR誘致の議論が進む影で、ギャンブル依存症患者の家族は不安を抱えている。当事者や家族の相談を受ける自助団体「全国ギャンブル依存症家族の会北海道」のメンバーは、「ギャンブル依存症の若年化とオンライン化に対策が追いついておらず、すごく不安だ。道は予防教育を強化してほしい」と訴える。
「生活費がもう無い。パチンコで全部すっちゃった」
札幌市の医療従事者の女性(60)は、長男が夜中にかけてきた電話に衝撃を受けた。当時21歳だった長男は関東地方で働き始めて10カ月で、パチンコにのめり込み借金250万円を抱えていた。
すぐに札幌に呼び戻したが、ギャンブルがやめられない長男は盗みを繰り返した。妹のキャッシュカードから残高を全額引き出したり、会社の備品を勝手に売って換金したりした。また、ネットでヤミ金融業者に金を借りて返済を滞納。顔写真や氏名が載った免許証の画像をネット上にさらされた。警察にも相談したが、今もその「デジタルタトゥー」は消えていない。
長男は25歳の時に関東地方にあるギャンブル依存症の回復施設に入ったが、1年半ほどで施設から抜けだしたきり、家族と連絡を取っていないという。
女性は依存症を巡る状況について「オンラインゲームの広がりなどで若年化が急速に進み、一昔前のイメージとは全く変わっている。道内には医療機関や自助団体が少なく、高校や大学での予防教育も不十分だ」と語る。
ギャンブル依存症治療に20年以上携わる道精神保健協会の田辺等会長は、「新しいギャンブル施設ができると必ず依存症者は生まれる。その機会を行政が増やしていいのか」とIR誘致を目指す道に疑問を呈する。
田辺会長は「道はへき地医療維持に問題を抱えるが、依存症ではそれが顕著だ」と指摘。他の精神疾患と異なり、治療できる医師が少なく臨床にコストもかかる依存症は地方ほど治療を受けづらいという現状に触れ、「IRを検討するのであれば、遠隔相談体制の整備や専門医の雇用など、予算を組んで動き始めるべきだ」とくぎを刺す。
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