徳島県庁、35年の相棒に別れ 一世を風靡した地場産品の正体

2026/04/13 07:45 

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 「春は別れの季節」とも言われる。その言葉のように、徳島県庁が35年以上愛用し、一世を風靡(ふうび)したある「地場産品」に3月末でピリオドを打った。ベテラン職員には若かりしころの苦労も思い出させてくれる仕事の相棒だが、「職員になって初めてその存在を知り、使った」と話す若手・中堅職員も。その地場産品とは……。

 ◇人のような名前

 その「地場産品」には、人のような名前が付いており、親友を紹介するように魅力を話す愛用者もいる。東証プライム上場のソフトウエア会社「ジャストシステム」(東京都)が作った日本語ワープロソフトだ。ここまで言えば、ピンとくる人もいるかもしれない。その名は「一太郎」だ。

 一太郎単体でも販売されているが、徳島県が採用していたのは、一太郎のほか、表計算ソフトやグラフィックソフトなど複数のソフトウエアをパッケージにして官公庁や自治体向けに販売している商品だった。県は知事部局のほぼ全職員が使えるよう、3300ライセンスの5年契約を結んでいたが、3月末で契約期間が終了した。

 ◇90年代に業界で激戦

 ジャスト社が前身ソフトを改良し、一太郎という商品名で発売したのは、1985年8月にさかのぼる。優れたかな漢字変換機能などから、普及し始めたパーソナルコンピューター(パソコン)を使う人の間で話題となり、当時としては爆発的に売れた。

 90年代には、マイクロソフト(MS)社のワープロソフト「ワード」の日本語版と激しい販売競争を繰り広げた。97年には、一太郎は市場シェアでワードを追う立場に。一方、MS社は富士通といったパソコンメーカーへ、人気のあった自社表計算ソフト「エクセル」にワードを抱き合わせ販売させることで一太郎を排除して市場占有率(シェア)を拡大したとされ、公正取引委員会から98年に、独占禁止法違反で排除勧告を受ける事態になった。

 一太郎はその後も強みの縦書きを多用する官公庁や自治体で広く使われ、小説家などにも愛用者が多いともされてきた。ジャスト社は今も販売している。

 ◇ベンチャー企業で誕生

 徳島県庁では、かつて部署ごとに導入していたことから採用時期ははっきりしないが、91年入庁の職員は「当時、すでに使われていた」と振り返る。少なくとも35年以上、使われていたようだ。

 「地場産品」としたのは、ジャスト社は、天才プログラマーと言われる浮川初子さん(現メタモジ専務)と夫の和宣(かずのり)さん(現メタモジ社長)が起業し、一太郎も初子さんがプログラミングを担当したからだ。ジャスト社は創業時、徳島市内にあった初子さんの実家応接間に事務所を置いたことでも知られる伝説のベンチャー企業で、一太郎は文字通り「徳島市生まれ」だ。

 ◇過去文書をPDFに

 その優れた商品性や過去の一太郎文書の存在などのため、長らく一太郎を活用してきた県だが、国や市町村とやり取りする文書について、ワードなどが業界標準となってきたことを踏まえ、23年度にワードやエクセルなどがパッケージとなったMS社の商品3300ライセンス分を5年契約で導入し、併用してきた。

 一太郎の使用を終了するのは、MS社のソフトへの一本化による経費削減も狙いの一つ。25年度はジャスト社に4125万円、MS社に3401万円の計7526万円支出しており、26年度は大幅に削減される。

 ただ、長年使っただけに、一太郎で作成された文書(ファイル)は県庁内に多く存在。一太郎文書の閲覧だけなら無料ソフトで今後も可能だが、過去の文書を使って新たな文書を作る事態も想定し、ライセンス切れ直前の3月に県庁では、PDF文書への変換を急ぐ職員もいたという。

 県情報政策課の担当者は「MS社ソフトを導入した3年前から、一本化する方針だったので、ライセンス終了は予定通り。業界標準ソフトの導入で市町村などとの連携の生産性は上がっている。今後も職員の働き方改革による生産性向上に結びつくソフト・システムを探っていきたい」と話している。【植松晃一】

毎日新聞

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