「亡霊が出る」現代史家が見たナーバスな元少将 東京裁判80年
今から80年前の1946年5月3日、世界のまなざしが東京・市ケ谷の一つの法廷に向けられていた。
この日、開廷した極東国際軍事裁判(東京裁判)。第二次世界大戦の敗戦後、東条英機元首相ら日本の軍事的・政治的指導者28人が「平和に対する罪」でA級戦犯として起訴され、連合国側11カ国によって裁かれた。
法廷が置かれた旧陸軍士官学校大講堂は今、防衛省内に「市ケ谷記念館」として公開されている。証言台や傍聴席が復元され、厳かな空気が来場者に往時を伝える。
開廷80年の節目を前に、現代史家の秦郁彦さん(93)が法廷を訪れた。秦さんは東京大学在学中の50年代、複数のA級戦犯ら旧軍人にヒアリングを重ねた経験を持つ。
世間から冷ややかな視線を向けられる中、旧軍人たちは「教えていただきたいという姿勢で会いに行った」若い学生を相手に、重い口を開いた。
国際連盟脱退時に脱退論を唱えた荒木貞夫・元陸軍大将。若手将校らを集めて軍事クーデターを企てた橋本欣五郎・元陸軍大佐――。
秦さんが面会した一例だ。「A級の皆さんは結構しゃべるんですよ。問いに対して、率直に答えてくれる」
A級戦犯に限らず、中枢に関わった旧軍人にも広く話を聞いた。田中隆吉・元陸軍少将は忘れがたい人物だ。
田中は東京裁判で検察側の証人として証言台に立ち、満州事変前後の日本軍の動きを語った。こうした行動は、昔の陸軍仲間からは「裏切り者」と糾弾された。
「私が会ったころはナーバスになっていました。昼間も暗い部屋にずっといて、『(A級戦犯で絞首刑となった)武藤章の亡霊が出るんだよ』というようなことも言っていました」
戦後、日本は東京裁判の判決を受け入れ、主権を回復し、非軍事化の歴史を紡いできた。一方で裁いた戦勝国自身が紛争の当事者にもなり、世界で戦火は絶えない。
戦後日本の原点といえる東京裁判を考える意義は高まっている。【松原由佳】
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