<甲子園優勝監督に聞く>5打席敬遠「今はやらない」 明徳義塾の馬淵史郎監督
第97回選抜高校野球大会に4年ぶり21回目の出場を決めた明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督(69)は、今大会で監督として歴代単独最多39回目の甲子園出場となる。2002年夏の全国制覇を含めて歴代4位の春夏通算55勝を挙げ、23年に高校日本代表監督としてU18(18歳以下)ワールドカップで「世界一」となった勝負師は、現代の高校野球にどう向き合っているのか。【聞き手・来住哲司】
◇時代の流れに合わせて指導法も変化
――1990年8月に明徳義塾の監督に就任してから、途中で退任していた1年間(05年8月~06年8月)を除いてチームをずっと率いてきました。高校生をどう指導してきましたか。
◆時代の流れというか、子供の考え方が私たちの世代とは全然違います。40代、50代の親とも全然違う。彼らは裕福に育っている。
私は中学2年まで愛媛県八幡浜市の沖合にある大島で育ったが、当時は水道が通っていなくて井戸水を使い、小学生の高学年でバナナを初めて食べて感動した。家には防空頭巾があり、戦争の色が残っていた。高校で親にグラブを買ってもらい、スパイクを含めて破れたら縫って3年間使った。物がないから大切に使ったし、だから愛着が生まれたし、愛着があるから継ぎはぎをしても使った。
今は半年か1年でグラブを買い替える選手もいます。経済的に恵まれているから、根本的な考え方が違う。そこは今というより、監督就任当初からそうだった。子供たちには「物を大事にしろ」「用具を大切にしろ」と言い続けています。
――35年近い監督生活で、時代に合わせて指導を変えましたか。
◆昔のやり方が全ていいとは思わないし、変えるべきところは変えないとそっぽを向かれる。私も当初はスパルタで、練習量を重視して質を考えなかったが、今は「俺についてこい」ではついてこない。60歳を過ぎてから時代に合った指導をしないといけないと心掛けてきました。高校野球も変化の連続。例えば、延長戦は元々は無制限だったが、延長十八回制になり、延長十五回制になり、タイブレーク導入。それに合わせて練習方法を変えないといけない。
――教え方で具体的に変えた部分は。
◆情報があふれているから、今の子は頭でっかち。パワーもないのに、ユーチューブなど動画で見た大谷翔平選手(米大リーグ・ドジャース)の打撃をまねする。「体力があるならまねてもいいが、ないならやめろ。打てないから」と注意しています。私はピカソをよく例に出して「ピカソの絵は独特だが、20歳の頃の絵は写真みたいだ。高校生の今は人間としても野球選手としても基礎を学ぶ時期だ」と説明しています。昔は説明せずに「体で覚えろ」と練習させたが、今は理屈を説明して頭で分からせてから体で覚えさせます。
野球はある日突然上手になる。それがいつ来るか、本人も指導者も分からない。だけど、一生懸命やらないと「ある日」は来ない。昔に比べて今の子は辛抱できない。「『棚からぼた餅』というが、落ちてきたぼた餅を食べられるのは棚の一番近くにいた人。遠くにいてはだめ」と説いています。
◇「さわやかなら長髪でもいい」
――SNS(ネット交流サービス)などを活用していますか。
◆4、5年ほど前から全校生徒にiPadが学校から貸与されたので、対戦相手の映像は全体ミーティングで1回見るが、後は選手個人でiPadで検索して研究してほしいとやらせています。彼らもそのような形で取り扱えないと、世の中に取り残されてしまう。
――近年は甲子園で選手の髪形が長髪のチームが散見されますが、明徳義塾は丸刈りのままですね。
◆私は髪形にこだわりません。さわやかであれば長髪でもいい。ただし、夏は暑いから長髪だと邪魔では。うちは全寮制だし、風呂も丸刈りなら短時間で済む。うちは髪形に決まりはないし、私は何も言わないが、部員たちが伝統的に丸刈りにしています。
――92年夏の甲子園の2回戦で星稜(石川)と対戦した際、相手の4番・松井秀喜選手(米大リーグ・ヤンキースGM付特別アドバイザー)を5打席連続敬遠し、「勝利至上主義」などの批判が起きて騒動になりました。今後、もし松井選手クラスの強打者と対戦したら、また全打席敬遠をしますか。
◆今はやらない。投手がいるから。今大会は池崎安侍朗(2年)という左腕エースがいる。(過去に明徳義塾のエースだった)松下建太(元西武)、岸潤一郎(西武)らがいたら敬遠しなかった。当時はエースの岡村憲二(明治安田監督)が肘痛で投げられず、2番手投手では松井選手を抑えられないと判断しました。ただ、間違ったことをしたとは思っていない。全打席敬遠は当初考えなかったが、ルールブックに試合の目的は「勝つことが目的」と書いており、勝てるチャンスがあったからやったのです。
◇「野球学校はだめ」
――一方、高校野球で残すべきものは何だと思いますか。
◆精神的な部分は残したい。なぜ高校野球がここまで発展したのか。それは教育の一環としてやってきたからだと思う。教育現場でいかにいいチームを作るか。私も社会科の教員免許を取ったが、監督は学校の教職員として子供たちが普段の学校生活をどのように送っているのか把握して部活動の指導をする。監督が学校現場を全く知らないで勝っても、それに何の価値があるのかと思っている。
野球学校ではだめ。明徳義塾は特待生を集めて朝から晩まで練習していると思われているかもしれないが、実際は校内テストで赤点を取ると練習に出られないので、勉強もちゃんとやっています。
――監督として甲子園出場回数は今大会で39回目(春17回、夏22回)となり、38回で並んでいた高嶋仁・智弁和歌山前監督(78)を上回って歴代単独最多になります。
◆「一回でも甲子園に行けたら」と思って監督を引き受けたが、出るたびに「もう一回」という気になった。初めて出た時はすごく緊張して「(試合前の)ノックで空振りするのでは」と思ったが、その時以外は甲子園でも国際大会でもプレッシャーを感じたことがない。ワクワクする。甲子園は何遍出てもいいし、最高の場所だ。
調べたら、今大会1回戦が甲子園93試合目(20年の甲子園交流試合を含む)。93試合もやれるなんて、(監督経験者の)みんなに怒られる(笑い)。ちなみに高嶋さんは103試合。これはちょっと抜けないかな。
◇馬淵史郎(まぶち・しろう)
1955年11月生まれ。愛媛県出身。三瓶(愛媛)―拓殖大で遊撃手。阿部企業の監督として86年に社会人野球日本選手権で初出場準優勝。87年に明徳義塾のコーチ、90年に監督となり、2002年夏の甲子園を制した。甲子園通算55勝(春19勝、夏36勝)は歴代4位。25年春で歴代単独最多39回目の甲子園出場となる。
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