ミラノ五輪、聖火つないだ日本人ランナー 異国の地で走る意味は
ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの開幕を目前に控え、聖火はイタリア北部の街を巡っている。首都ローマから開会式の会場があるミラノに向け、イタリア全土(1万2000キロ)を約1万人でリレーする。現地で暮らす日本人女性も聖火台にともす炎をつないだ。
1月29日午前11時ごろ、アルプス山脈に囲まれた自然豊かな街・メラーノをトーチを掲げた川口真奈美さん(47)が駆け抜けた。「日本から来た私をランナーに選んでくれたことがうれしく、感謝しながら走った」
聖火ランナー当選の知らせは、2025年11月下旬の夕方に届いた。
「Congratulations!」
お祝いの言葉とともに走る日付などがイタリア語と英語で記されたメールを、両方の言語で隅々まで読んだ。喜びをかみしめながら、ある思いが頭をよぎった。「日本から来た私が聖火ランナーとしてイタリアの街を走る意味ってなんだろう」
名古屋市で生まれ育ち、幼少期からスポーツに触れた。ソフトボールやハンドボール、陸上競技に取り組み、大学では体育学を専攻した。自分のプレーだけではなく、チームメートのために声援を送り、試合が終われば対戦相手をたたえる。スポーツを通じて広がる出会いにも魅力を感じてきた。
16年に訪れたスペインで後に夫となるイタリア人の男性と知り合った。新型コロナウイルス禍で行き来が難しい時期もあったが、21年に結婚。その年の秋に、イタリアへ渡った。
今は北部のロベレートに住む。日本の夜間学校に相当する公立学校に通い、さまざまな事情で中学校を卒業できなかった人たちと机を並べ、イタリア語や歴史、文化を学んだ。
日本の文化も知ってほしいと、週末に開かれるマーケットでは書道や折り紙などを体験できる場を提供してきた。
ただ、日々の暮らしの中には慣れないことも多い。ほとんどの車はミッション車で、ハンドルや道路の進行方向は日本と逆。列車は頻繁に遅れ、アパートにはエアコンがないことも多い。人との接し方における「気遣い」は、日本人の方が丁寧だとも感じる。
それでも、イタリア人は当然のように食品スーパーのレジスタッフに「良い一日を」とあいさつし、週末は親と一緒にピザを作って家族との時間を大切にする。「違い」を感じることはあるけれど、イタリアに住む「彼や彼女たち」の暮らしや文化に敬意や親しみを感じることが増えた。
さまざまな立場の人全員でつなぐ聖火リレー。日本から来て4年、出会った人たちへの感謝を胸に走った。
リレーの当日。先導車に乗るカメラマンから「英語? イタリア語?」と聞かれ、「日本語」と答えると、彼は「ありがとう」と言った。こちらからは「グラッツェ」と返した。
「文化や考え方の違いはあっても、否定や排除ではなく、受け取ったり理解しようとしたりすることで、人と人はつながることができる。さまざまな『違い』がある人たちで一つの聖火をつないだことで、一体感を味わえた」
世界各地で「分断」への懸念が強まる中で始まるスポーツの祭典。「私」が異国の地で聖火をつないだ意味が見つかった。【山田豊】
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