賃上げからも置いてけぼり 不遇の「氷河期世代」はどうなる
2025年の春季労使交渉(春闘)が事実上スタートした。今年も賃上げムードが高まっているが、全ての世代に恩恵が行き渡るわけではない。特に賃金面で「不遇」とされるのが「就職氷河期世代」だ。日本総合研究所の下田裕介主任研究員は「氷河期世代の人たちの自己責任論で終わらせるのではなく、社会的な大きな問題と捉えることが必要」と強調する。下田さんの主張は次の通り。
◇不遇かどうかは「どこを切り取る」か
就職氷河期世代に明確な定義はない。政府は、1974年から83年生まれの人たちを氷河期世代の中心層としている。
不遇であるかどうかは、どこを切り取って捉えるかによるだろう。「20代」で捉えると、この世代は不遇だった。90年代初めごろ、大学の定員抑制方針が緩和され、大学側が学生を多く受け入れた。そこに景気のクラッシュが起きた。新卒採用時に学生増と不景気という二重の壁が立ちはだかったと言える。非正規雇用になった人も多く出た。
賃金面でいうと、上の世代にあたる「バブル世代」より抑えられているのは確かだ。氷河期世代は現在、40代が中心だが、住宅ローンを抱えていたり、子育て世代では教育費の負担を感じたりしている人も少なくないのではないか。
政府の支援は、2000年代初めから少しずつ始まった。だが、実情をうまく捉えきれずにあまり機能しなかった。19年になってようやく支援が本格化した。見方によっては20年近く放置されたとも言え、気が付くと氷河期世代の人たちは中年になっていた。年を取ってしまうと教育・訓練投資の効果が薄れるという調査結果もある。
「まだまだ働ける」「努力が必要」といった論調も見受けられるが、少し違和感がある。「若い時からやるだけの努力はやっている。でも長年、放置された。今更やっても無駄」と諦めの気持ちを持つ人もいる。そういった人をいかに気持ち的にプッシュしてあげるかが重要だ。同時に、メンタルをやられ、社会とのつながりをうまく持てなくなってしまった人たちに対する福祉面のサポートも必要だろう。
現役世代の給料が増え、消費に回れば景気拡大を後押しすることになる。構造的な人手不足のなか、賃上げの動きをみると、20代前半の賃金水準は、今よりも良くなっていくという期待はある。でも、実力ベースの賃金にシフトしていく中で、賃金を上げていくには、それなりの実績が必要になる。
だから、初任給が高いからといって、20代後半、30代も、かつての年功序列のように、皆がしっかりと上がっていく姿にはならない可能性が考えられる。
氷河期世代で一番年上の方は50代に入っている。親の介護に直面する人が増えてくる。その親が亡くなり、自分が高齢者になった時、経済的な不安はないのか。住居や年金を確保できるかも不安の種になっている。
就職氷河期問題の本質とも言われている「非正規雇用を長く続けざるを得なかった人」は資産形成もままならず、年金受給年齢になってももらえる額が少ないケースが多いとみられる。とても生活できるレベルではなく、そこでまた貧困が生じてしまう。いろいろなところで問題が生じてくる。
氷河期世代が高齢者になり、現役世代が支えることになれば、結局、氷河期世代の人たちの自己責任では済まされなくなる。氷河期世代には「団塊ジュニア世代」の人も一部含まれ、ボリュームが非常に大きい。社会的な大きな問題と捉え、政治がしっかり目を向け、対策に取り組んでほしい。【聞き手・後藤豪】
◇しもだ・ゆうすけ
2005年に東京工業大学大学院を修了し、三井住友銀行入行。06年、日本経済研究センターに出向し、08年に日本総合研究所調査部マクロ経済研究センターに移る。22年7月から調査部金融リサーチセンター。専門はマクロ経済、金融。
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