20年越しのラブレターが映画に――“奇跡”がつないだ物語 石井裕也監督×妻夫木聡×佐藤浩市…
(左から)石井裕也監督、妻夫木聡、佐藤浩市(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.

【動画】映画『人はなぜラブレターを書くのか』予告映像
2000年3月、地下鉄脱線事故で短い生涯を閉じた富久信介さん(享年17)。通学電車の中で彼に密かに想いを寄せていた一人の少女がいた。名前も知らず、言葉を交わしたこともない――そんな淡い恋は、突然の事故によって幕を閉じる。
それから20年後の2020年。ある女性から、信介さんが通っていた大橋ボクシングジム・大橋秀行会長のもとにメッセージが届く。あの時の少女の思い出と伝えられなかった想いが綴られた“ラブレター”は、信介さんの家族のもとへと届けられ、知られざる信介さんの青春の断片を浮かび上がらせた。この“奇跡の実話”は新聞やテレビで報じられ、多くの人の心を動かした。
その一人が石井裕也監督だ。映画化するアイデアが生まれてから6年、主演に綾瀬はるかを迎え、妻夫木聡、佐藤浩市、當真あみ、細田佳央太、菅田将暉らが集結し、実話をもとにした珠玉のドラマが誕生した。“奇跡の実話”は今も続いている。
■「想いは消えない」――奇跡に導かれた参加
妻夫木は5作目、佐藤は4作目の石井監督作品への出演。オファー当時を振り返り、妻夫木はこう語る。
「ちょうど2年前くらいでした。台本をいただいて、読んですぐに監督にメールを送ったことを覚えています。一通の手紙が多くの人の心を動かす、それが実話をベースにしていることに驚きましたし、一人の死によって、さまざまな人の人生が変わってしまう中で、“想いは消えない”と強く感じたんです。そこに希望があるような気がして。ぜひ参加したいと思いました」
一方、佐藤は「石井監督はとにかくチャレンジングな人だから」と前置きし、「どんな作品をやると聞いても、“らしくない”とは思わない。今回も“こういう挑戦をするんだな”という印象でした」と振り返る。
その上で、「地下鉄脱線事故のことは覚えていますし、若い人が亡くなったことも記憶に残っていました。20年後にメッセージが届いた話は知らなかったのですが、それをどう映画にしていくのか、どう観る人に届けていくのか――。石井監督が挑戦しようとしていることに、僕も一緒に挑戦したいと思いました」と語った。
なぜ石井監督はこの実話を映画にしたのか。
「自分が何かに取り憑かれるように心を揺さぶられたとき、『これは映画になる』と思うことが多い」と語る石井監督。「20年後のラブレター」として1通のメッセージが起こした奇跡を報じた記事を読んで心動かされ、映画製作のアイデアが生まれた。「菅田将暉くんが『使命感を持って役を受けた』と言っていたのですが、自分もそれに近い感覚だったと思います」と振り返る。
「“なぜ20年後に手紙を書いたのか”が知りたくなりました。あれこれ想像を巡らせるうちに、“そもそもラブレターを書く行為とは何なのか”という問いに行き着きました」
その問いは、本作のタイトルにもつながっていった。
メールやSNSの普及によって手紙を書く機会が減る中で、本作の主人公ナズナはペンを手にして想いをしたためた手紙を、ポストに投函。その手紙が届けられるまでの過程が丁寧に描かれる。
石井監督のこうした演出に、妻夫木は深い共感を示す。
「監督が一番考えていたことなんだろうなと思いました。手紙を書くことで、過去の出来事や気持ちと向き合うことができるし、文字になった言葉には人の心を動かす力があると感じています。筆跡や余白にも想いが込められる。それは手紙でしか表現できないものだと思います。手紙を書くには勇気がいるし、手間もかかる。でも、その過程の中で生まれる“何か”がある。その“何か”はうまく言葉にできないんですけど……。手紙を書くことは、自分自身を確かめる行為でもあり、その行為自体に価値があると感じています」
佐藤もまた、手紙の持つ意味に言及する。
「書くという行為は残すためにすることもありますが、ラブレターは相手に“伝えるため”のものですよね。でも結果として、書いているときの思いは自分の中に残っていく。あとになってふと思い出すきっかけになることもあるし、ことあるごとに心によみがえってくるものだと思います」
■スクリーンに宿る“もう一つの奇跡”
劇中で手紙を書きはじめる主人公・ナズナを演じた綾瀬について、妻夫木は「自然に人を幸せにするオーラがある」と語る。
さらに、「彼女はわからないことをうやむやにしないんです。監督が求めているのは、言葉ではうまく説明できないような、とても繊細な感情だったりするんですけど、“どう演じたらいいのかわからない”時は、そのままぶつけてくれる。お互いオープンにやり取りできて、とても良かったです。そんな彼女がナズナを演じたからこそ、生きることや死についてもいろいろ感じられる作品になったんだと思います」
また、若手キャストについても言及。佐藤は信介役の細田佳央太について、「僕らはすれ違う親子だったので、完成した映画で初めて見る彼の姿もあって、劇中のお父さんと同じような発見がありました。多面的に役と向き合い、一生懸命に表現しようとしているのが伝わってきました」と語る。
妻夫木も「ボクシングに関してはゼロからのスタートだったにもかかわらず、3〜4ヶ月のトレーニングで驚くほどの成長をとげていました。本当に一生懸命でしたし、すごく負けず嫌い。誰かに勝ちたいというより、自分に対してすごく厳しいタイプだと思いました」とその努力を称えた。
石井監督は菅田が演じる川嶋勝重のボクシングシーンについて、「ボクシングにはアクションとしての面白さがあると思いますが、今回はそれだけではなく、“想いを背負って戦う姿”を描きたかったんです。だからこそ、その思いが伝わるようなボクシングの表現を目指しました。もう一つは、世界戦の舞台の表現です。あのシーンは、信介さんや川嶋さんらが思い描いていた夢を具現化した象徴的な場面でもあるので、そこはおろそかにできなかった。しっかりと力を込めて描けたと思います」と、菅田の覚悟を持った熱演を称えていた。
■それぞれが見据える“これから”
3人に“これから”についても聞いた。
石井監督は、「とにかく新しいことにチャレンジしていくことだと思っています。より良いものを目指して、一生懸命映画を作り続けていかないと、妻夫木さんや浩市さんにも出てもらえなくなってしまうかもしれない。だからこそ、かつての自分に負けないように、これからも頑張り続けていきたいと思っています」と語った。
妻夫木は、次の段階を見据える。
「“うまくなりたい”というのは当たり前として、その“うまさ”とは何かをずっと考えています。完璧ではない自分のほうが“リアル”だと感じることもある。“うまさ”だけを追求するのではなく、弱さも含めて自分を受け入れることで、表現を深めていけるんじゃないか、もっと視野を広げていけるんじゃないかと感じています」
佐藤は芝居を“ゴルフ”に例えた。
「芝居はゴルフと同じ。スライスの曲がり幅がどれくらいかによって結果が大きく変わるように、芝居も感情の強さやニュアンスの加減によって大きく変わる。グリーンでパッティングラインを読み間違えたらアウト。芝居も読み違えると、すべてがズレていく。もし、その読みを完全に見誤るようになったら……引退ですね」と冗談めかした。
妻夫木が「でも、いつも冒険されていますよね」と突っ込むと、佐藤は笑いながらこう続けた。
「ゴルフで“よくそのラインで打ちましたね”とか、“下りなのに強く打ちましたね”って言われることがあるように、芝居もそういう感覚でやりたいんです。挑戦しているつもりです(笑)」
20年の時を越えて届いた一通のラブレター。それは一人の人生を照らし出しただけでなく、映画という形を得て、次の誰かの心を動かす“新たな奇跡”を生む――そんな予感を抱かせる作品だ。
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