中国の「グレーゾーン作戦」に危機感 台湾当局が高雄で海上演習公開

2025/06/08 22:33 

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 台湾の海巡署(海上保安庁に相当)は8日、南部・高雄の高雄港で海空軍などとの合同演習「海安12号」を公開で行った。台湾が実効支配する離島周辺では、中国公船が台湾の定めた制限水域に侵入する事案が相次ぎ、台湾側は対応力強化が急務となっている。

 演習は2年に1度行われていて、今年は海巡署の巡視船・巡視艇計13隻や海軍の対潜ヘリコプターなどが参加。テロ組織のメンバーが台湾本島と離島を結ぶ客船を乗っ取り、近くの天然ガス備蓄基地を攻撃しようとしているとの想定で行われた。

 高速ボートに乗った海巡署の特殊部隊は、ヘリコプターと連携しながら客船を追跡。舷側にかけたロープを使って、客船に乗り込んで制圧した。

 視察した頼清徳総統は、武力行使に至らない手段で脅威を与える中国の「グレーゾーン作戦」に直面しているとの認識を示し、第一線で対峙(たいじ)する海巡署員を激励。「台湾人の安全と尊厳を守るために、海巡署には最新の装備と科学技術を備えさせなくてはならない」と訴えた。

 少数与党の頼政権は予算審議で野党の反対にあっている。今回の演習には、海巡署の役割を強調して、態勢強化への協力を野党側に呼びかける狙いもある。

 海巡署が重視される背景には、中国・福建省の対岸にある金門島や南シナ海北部の東沙諸島周辺での中国船の動きへの警戒感がある。

 金門島では2024年2月に海巡署公船の取り締まりから逃れようとした中国漁船が転覆し、中国人2人が死亡した事件をきっかけに、中国海警局がパトロールの常態化を宣言している。

 高雄の南西約450キロにある東沙諸島では、今年に入り中国船の動きが活発化。サンゴ礁が主体の島は台湾当局が公立公園として周辺での漁業を禁止しているが、海巡署によると絶滅危惧種のアオウミガメなどを狙った中国漁船が船団を組んで漁をするケースが増加している。台湾が定めた制限水域に入った中国船は23年に11隻、24年に33隻だったが、今年は5月上旬時点で30隻を数える。

 3月には台湾の巡視船が中国漁船を制限水域から追い払おうとしていたところ、海警局の公船が水域に侵入して中国漁船に乗船検査を行おうとした。漁船を伴って水域に現れ「法執行」を既成事実化して、対外的にアピールするのが目的とみられる。

 中国海警局は、フィリピンと領有権を争うスカボロー礁など南シナ海でも活動を活発化させている。海巡署関係者は「海警局の公船が南シナ海からの帰路に、わざと東沙諸島に近づいていやがらせしている可能性もある」と指摘。「台湾の主権に対する脅威であるだけでなく、海洋生態系の保護という国際社会の理念にも反する」と訴えた。【高雄(台湾南部)林哲平】

毎日新聞

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