韓国の原子力潜水艦独自建造を承認 米韓で利害一致 双方の思惑は

2025/10/30 19:39 

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 トランプ米大統領は30日、韓国の原子力潜水艦の独自開発を承認すると表明した。背景には、海軍力を増強する中国をけん制するうえで、韓国の協力を得る狙いがあるとみられる。韓国も原潜の開発を進める北朝鮮への対応を迫られており、米韓の利害が一致した形だ。

 中国は10隻以上の原潜を所有する。米軍はアジア太平洋地域に原潜を配備しているが、プレゼンスを強化するため、オーストラリアへの原潜導入を推進。韓国も原潜を独自建造すれば、米国としては対中けん制の役割を期待できる。

 韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は29日のトランプ氏との会談で、通常兵器を積んだ複数の原潜を韓国が朝鮮半島周辺で運用すれば「米軍の負担もかなり減る」と訴えていた。

 韓国独自の原潜は、韓国企業「ハンファオーシャン」が米東部ペンシルベニア州に所有するフィリー造船所で建造する。米国内の建造はトランプ氏が重視する米国の造船業復活にも寄与する。同造船所は米韓の造船協力の中心。反発を強める中国は今月14日、同造船所を運営する企業などに制裁措置を科した。

 一方、原潜の独自建造は韓国にとっても安全保障面で効果が大きい。

 北朝鮮は3000トン級など大型潜水艦の建造を強力に推進。さらに北朝鮮国営の朝鮮中央通信は3月、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が「核動力戦略誘導弾潜水艦」の建造現場を視察したと伝えた。

 韓国軍事問題研究院の金烈洙(キム・ヨルス)安保戦略室長によると、これは核弾頭を搭載可能なミサイルを運用する戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を指す。

 だが韓国は現状、ディーゼルエンジンで動く潜水艦しか所有していない。韓国の安圭伯(アン・ギュベク)国防相は30日、国会の委員会で「ディーゼル潜水艦では潜航能力と速度で(北朝鮮が計画する)原潜に対抗できず(韓国による原潜建造は)大きな意味がある」と述べた。一方で原潜の完成は2030年代半ばになるとの見通しを示した。

 韓国には、米韓原子力協定の改定につなげる狙いもある。米国は核転用への懸念などから、現行の協定では韓国によるウラン濃縮などに米側の同意を義務づけている。

 このため韓国は、原発の燃料の濃縮ウランなどを主にロシアから輸入してきた。金室長は「燃料は高価な上に、ロシアのウクライナ侵攻の影響で韓国企業の燃料購入に支障が出ている」と指摘する。経済界からは協定の改定を求める声が強い。李政権は米国による原潜建造の承認を突破口に、悲願の協定改定も目指す方針だ。【ソウル福岡静哉、慶州(韓国南東部)松井聡】

毎日新聞

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