インドネシア、スハルト元大統領を国家英雄に 32年間、独裁政権

2025/11/11 07:15 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 インドネシア政府は10日、32年にわたり独裁政権を続けた故スハルト元大統領に、名誉称号「国家英雄」を授与した。人権侵害の歴史を隠蔽(いんぺい)する動きだとして、人権団体などから反発の声が上がっている。

 スハルト氏は1965年、精鋭部隊の戦略予備軍司令官として、共産党のクーデター未遂とされる「9・30事件」を鎮圧した。共産党を壊滅させる過程で、50万人以上が虐殺されたとされる。66年3月、「建国の父」スカルノ初代大統領から実権を奪い、68年に第2代大統領に就任した。

 「開発独裁」と呼ばれる体制のもと、日本や米国などの資本を導入して経済成長を進めた一方で、言論の自由を抑圧。縁故主義や汚職も横行し、在任中の不正蓄財は最大350億ドルに上ると推計されている。

 スハルト氏は2010年と15年にも候補となったが、称号の授与を逃してきた。だが、24年10月に就任したプラボウォ大統領は、スハルト氏の元娘婿であり、国軍の最高幹部として独裁政権を支えた経歴を持つ。過去の選挙戦でも、同氏の選出を明言していた。

 スハルト政権下での民主化運動弾圧などを追及してきた人権NGOは、重大な人権侵害に責任があるとして、称号授与は「不適切だ」と批判。インドネシア法律扶助協会も10日、「法的にも人権的にも矛盾する」との声明を発表した。

 政府は歴史教科書の改訂作業も進めており、スハルト政権を肯定的に再評価する可能性があるとして、懸念が広がっている。

 国家英雄の称号は、国の独立や発展に貢献した故人に毎年授与され、今年はスハルト氏のほか、民主化を推進した故ワヒド元大統領ら計10人が選ばれた。【バンコク国本愛】

毎日新聞

国際

国際一覧>