「多党化」進んだ参院選 要因はどこに? 高知県立大・吐合大祐講師

2025/08/16 11:15 

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 衆院に続き与党が過半数割れに追い込まれた参院選からまもなく1カ月。石破政権が継続するのかどうか、与野党がどう法案審議に向き合うのかなどいまだ先行きは見えず、政局は流動化したままだ。今回の参院選がもたらした「民意」とは何だったのか。今後、「地方」にどんな影響が生じると考えられるのか。地方政治に詳しい高知県立大文化学部の吐合(はきあい)大祐講師(33)に聞いた。【聞き手・小林理】

 ――今回の参院選で示された「民意」はどういったものだったのでしょうか。

 ◆ポイントが二つあると思います。一つは、自公政権を有権者が支持しなかったということ。参院選の場合は定数1の選挙区、いわゆる1人区の状況が、時の政権への支持の度合いを示すと言われます。参院選をさかのぼると、2019年の安倍政権の時は32選挙区で自民党が22勝、22年の岸田政権の際は28勝だったのですが、今回の石破政権では14勝で負け越しです。この変化が自公政権への支持が揺らいだことを示していると考えます。

 ――確かに四国でも1人区の3選挙区の全てで非自民候補が勝利しました。

 ◆もう一つのポイントは、与党が支持されないのなら、本来は野党が台頭して政権交代の機運が高まるはずなのですが、今回の選挙ではそうならなかったということ。比例区の状況から見て取れるのですが、「この政党に政権を任せたい」という勢力が有権者の中に確固として存在していないため、野党第1党の立憲民主党に支持が集中せず、国民民主党や参政党、日本保守党などに支持が分散しました。つまり、多くの有権者は自民党に疑問を突きつけたんだけど、じゃあ代替案は何なのか、というイメージまでは共有しなかった、ということです。

 ――自公政権は嫌だけど、政権交代も望んでいない有権者が多かったということでしょうか。

 ◆議院内閣制であることを考慮すると、与党が支持を失ったら、野党第1党が代わって与党になるというのが普通のサイクルだと思うのですが、今回は多くの有権者が「こういう政権がいいな」というイメージを持たずに、自分が良いと考えた野党に投票したため、さらに多党化が進んだ、という印象です。

 ――なぜ自公政権への支持が落ち込んだのでしょうか。

 ◆生活が苦しいゆえに、「手取りが増えてほしい」「なんで社会保険料はこんなに高いんだ」「消費税率を下げられないのか」など、経済政策への不満が大きくなったと思います。政権党もそれなりに取り組んでいたと考えますが、それが有権者に伝わらず、見えてこなかった。選択的夫婦別姓や安全保障などの大きなテーマもありましたが、より生活に直結する政策が重視された結果だと思います。

 ――多くの党に票が分散した理由は?

 ◆もともと参院選の比例代表制度は、多党化を促進しやすい制度と言われています。その中で今回は物価高対策や社会保障費の問題など、それぞれの野党が自らの支持基盤層に向けて、特徴ある政策や解決方法を提示しました。それを見て、有権者は自分の考えに合った投票先を選ぶことを優先したため、票が分散したと考えます。

 ――参政党の議席増が目立ちました。

 ◆継続して追跡しないと分かりませんが、既出の報道や調査を見ていると、自民党支持者、あるいはどちらかというと自民党を支持していた人たちが離れ参政党に投票したという印象です。安倍、岸田政権の自民党を支持していた人たちが、今回は参政党に投票したということなのかと。

 ――四国では愛媛と、合区の徳島・高知の2選挙区で非自民の無所属候補が勝利しました。

 ◆四国に限ったことではないのですが、野党統一候補という存在が、「自民党以外に投票したい」という幅広い有権者の受け皿になりました。無所属で立候補することは、今回の選挙では有権者の関心に対応した合理的な対応の一つだったと言えます。ただ、当選後の国会での仕事を考えると、無所属での活動は難しい点があります。今後、議員が国会で何を主張し、どう活動するかを有権者は注視する必要があります。

 ――合区で投票率の低さが課題となっていますが、徳島・高知選挙区では53・61%と前回選より7ポイント以上、上昇しました。

 ◆投票率が上昇するのは良い傾向だと思います。「なんでうちの県が合区なんだ」という不満があっても、「一票を投じて、これからの政治がどうなるかを見たい」と思った人が増えたのでしょう。

 ――合区制度についてはどう考えますか?

 ◆行政単位としての県という存在は大きいと思います。違う政策を実行している県が、参院選ではミックスされるとなると、有権者からすれば「地域代表」を選んでいるとは考えにくい。国会議員は国民の代表であると同時に、地域やコミュニティの意見の代弁者でもあります。県という仕切りを外して、越県選挙区を作れば有権者の不満が高まるのも当然だろうと思います。

 ――今回の選挙結果が地方政治に与える影響はどう見ますか。

 ◆地方議会、例えば市町村議会は定数20とか30とかいう大選挙区制なので、総投票数の3~5%を取れれば当選する可能性があります。国政に比べると当選に必要なハードルは低いのです。今回、伸長した国民民主党、参政党、日本保守党などが、地方議会で存在感を増す可能性はあります。情報発信力が強い政党ですので、地方議会で複数の議員を擁すると存在感はかなり強まります。一方、首長は1自治体に1人ですから、新興勢力になるのはちょっと厳しい。しかし、選挙での政党連携などで影響を与える可能性はあります。

 ――勢力図が塗り変わった今後の政治を見る上でのポイントは。

 ◆比較第1党は自民党なので、自民党がどう動くのかが重要です。予算や法案を通すためには、野党の支持を得ないといけない。多党化する状況で、野党はそれぞれに特徴ある政策を持っていますから、どの党に支持を求めるかによって、取るべき政策が変わります。それは私たちの生活に直結します。

 私が心配しているのは、時間が経過して有権者が「この選挙は一体何だったのか」と失望してしまうことです。苦しい生活への展望を託して投票したのに、混乱の末に何も変わらず、「何を見せられているのか」と考える人が増えることを懸念します。

 ◇吐合大祐(はきあい・だいすけ)

 島根県立大総合政策学部卒、神戸大大学院法学研究科博士課程修了(政治学博士)。ひょうご震災記念21世紀研究機構などを経て、2025年4月から現職。専門は政治学・行政学。

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