高野山の宿坊、1泊20万円超えスイートルーム 外国人から予約殺到

2025/02/01 06:00 

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 聖地の厳かさに身が引き締まる場所、高野山(和歌山県高野町)。弘法大師空海の御廟(ごびょう)がある奥之院の一の橋入り口近くに、宿坊寺院の恵光(えこう)院がある。外国人観光客の人気を集めているのが、簡素な宿坊のイメージを大きく覆すスイートルーム「月輪(がちりん)」の存在だ。

 「ワンダフル!」。入ってすぐに宿泊客を驚かせるのが巨大アートだ。金箔(きんぱく)が渦を巻くデザインで、真言密教の瞑想(めいそう)法「月輪観」に由来する。部屋全体が豪華に輝いている印象だ。100平方メートルの客室に備え付けられた専用の日本庭園や半露天風呂、広々としたベッドルームも目を引く。「どうせなら思い切りいい部屋を作りたかった」という近藤説秀(せっしゅう)住職(42)の理念が詰まっている。

 1200年の歴史を持つといわれる恵光院は知名度も高く、新型コロナウイルス禍前は国内外から年間2万人が宿泊する宿坊だった。2020年の感染拡大直前から宿泊客の意識には変化があったという。布団や大浴場、大部屋など宿坊特有の部屋や施設より、バストイレ付きの上級和室を望む声が一部で増えていた。

 国内の富裕層も含めて、宿坊でも高級感を味わいたいという嗜好(しこう)が年々高まっていたのだ。「宿泊は1泊10万円以上で探している。それ以下では泊まらない」との声も聞こえてきた。当時高野山では最高でも1泊3万円程度。「宿泊してもらわないと、朝の勤行(ごんぎょう)や護摩祈禱(ごまきとう)、瞑想(めいそう)などの仏教体験に参加してもらえない」。近藤住職の考えは少しずつ変わった。

 その後、新型コロナ禍では外国人観光客が消え、宿泊客は激減した。「単価を増やして利益率を上げよう」。大幅な改修工事を経て22年3月に「月輪」の供用を開始した。

 強力に後押ししたのが妻明日香さん(41)だ。当初は2部屋分を「スイートルーム」にするつもりだったが、「高野山で一番と言える部屋にしたら」と明日香さんが提案し、4部屋を改造して広い1部屋にした。底冷えのする寺院のイメージも一新し、最新式の床暖房も取り入れた。同年10月に水際対策が緩和されると、ネット情報を頼りに、すぐに外国からの宿泊予約の電話が鳴り続けた。

 「月輪」は1泊(2人)20万~25万円。今では利用者の8割を欧米や豪州を中心とした海外観光客が占め、部屋付き庭園は特に好評だ。寺院の僧侶で宿坊の案内係も務めるドイツ人のグナー・ヒュッツさん(28)は「歴史が感じられるミステリアスな高野山と最新設備とのフュージョン(融合)があり、それが外国人には魅力」と解説する。

 24年春には「月輪」に続くジュニアスイート(65平方メートル)2部屋もオープンした。他にも広い部屋を設け、部屋数は数年で35部屋から29部屋に減ったが、近藤住職は「宿泊客に対して、より丁寧に対応できるようになった」と話す。設備は更新されても一番大切な「おもてなし」の心は不変だ。【加藤敦久】

毎日新聞

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