使い捨てカイロを再利用 鉄鋼製品の原料に 神戸市が実証実験

2025/02/23 08:45 

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 厳しい寒さが続くこの季節、外出時などに重宝するのが使い捨てカイロ。手に乗せてシャカシャカと振る人の姿が見られる。年間で17億枚以上が販売されているが、長くても1日近くたてば冷めるため、そのままごみとして捨てられるのが一般的だ。そんなカイロの再利用に向けた実証実験が神戸市で進められている。

 使い捨てカイロは、不織布で包まれた鉄の粉が空気中の酸素と化学反応した際に発生する熱を利用している。大手メーカー製の平均温度は約50度。持続時間はサイズによって14~24時間と幅がある。携帯したり衣服などに張り付けたりと、さまざまなタイプが販売されている。

 日本カイロ工業会(東京都)によると、2023年度の販売数は約17億4500万枚。使用済みのものは大量の廃棄物となるが、自治体によって捨て方はバラバラだ。

 神戸市の場合は燃えないごみとなる。「カイロ内に50%以上の金属が含まれているため、燃えないごみと判断している」と担当者は説明する。一方、燃えるごみとして収集する兵庫県明石市は「カイロに含まれる活性炭が焼却でき、鉄も焼却灰として排出された後に埋め立て処分する」としている。

 神戸市が取り組んでいる実証実験は、ごみの減量・資源化を目指そうと2月上旬に始まった。資源回収ステーション「エコノバ」のうち、地域福祉センターなど32カ所に円柱型(高さ約80センチ)の回収ボックスを設置した。回収するカイロのメーカーは問わない。

 回収後は酸化した鉄と不織布袋に分別し、鉄から酸素を取り除く「還元処理」で鉄鋼製品の原料へとリサイクルする。この工程は、カイロを製造・販売する小林製薬(大阪市)やリサイクル業者が担う。

 神戸市中央区の市生涯学習支援センター「コミスタこうべ」では、17日までに約40キロ分のカイロが集まった。担当者は「私自身もリサイクルできるとは知らなかった。この取り組みを通じて、資源を大切に使う意識を持ってもらえたら」と呼びかける。

 ◇「環境問題考える機会に」

 使い捨てカイロの内容物は環境問題を改善する鍵としても期待される。一般社団法人「Go Green Japan」(愛知県大治町)は全国各地からカイロを収集し、中身をリサイクルして鉄と活性炭を加工した粒を製造している。化学反応で発生する「二価鉄イオン」が含まれており、この成分の活用法が2種類あるという。

 一つは水質汚染の改善だ。川や池などに入れることで、異臭や汚染の原因となるヘドロ内の硫化水素が分解される。水の濁りが少なくなり、水中の植物の光合成を活性化させることにもつながるという。これまで、世界文化遺産・古市古墳群(大阪府羽曳野市、藤井寺市)で壕(ほり)の水質浄化活動に中高生らと取り組んだ。

 もう一つは、やせた土壌に粒をまくこと。鉄分を供給し、農作物の成長促進や収穫量の増加に役立つという。

 ごみとなるカイロを水質浄化剤と土壌改良剤によみがえらせる同団体が収集するカイロは年間約80トンで、1個40グラムのカイロ200万個分に相当する。廃棄するはずの製品が付加価値のあるものに生まれ変わることを「リサイクル」ではなく「アップサイクル」と表現し、山田欽也理事(55)は「少しでも多くの人が環境問題について考える機会になってくれれば」と話している。【山本康介】

毎日新聞

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