大阪のTシャツブランド「EIJI」 世界的認証「チーム」で取得

2025/02/23 11:45 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 人生で一番の着心地を――。無地のTシャツなど丁寧なものづくりにこだわってきた大阪の縫製工場が、取引先の8町工場とチームを組んで国際的な認証を取得した。高品質で長持ちが売りの商品に着目する国内外のバイヤーも現れ始めた。飛躍する2025年に、と願う。

 大阪市中心地の梅田に近い、マンションやビルが建ち並ぶ一角に、1926年創業で従業員約15人の三恵メリヤスがある。

 認証の商品をほぼ一人で担当している新井(にい)純子さん(56)は「縫い方は一緒。認証を取ってはいない商品が交ざらないように意識するぐらい。『着心地が良い』とのお客さんの手紙を読むと、より一層丁寧に縫おうという意識になります」と笑う。入社4年目の福永愛さん(25)は「先輩たちは一枚一枚丁寧で早い。見習いたい」とする。

 丁寧な仕事ぶりはTシャツの裾の縫い目にもうかがえる。効率重視でミシンで一気に縫い上げていくのが業界の主流というが、ここでは女性従業員たちが古いミシンを使って手も加えて、スエットやTシャツなどを少しずつ丁寧に仕上げていく。4代目の三木健社長(43)は「手間がかかるし技術も要るが、ほつれにくくて丈夫だ」と胸を張る。

 素材選びや編み方などそれぞれの町工場が培ってきた技術を組み合わせて、17年に誕生した自社ブランド「EIJI(エイジ)」。創業者で曽祖父の英治さんの名前にちなむが、時を経ても一生使い続けてほしいとの思いを込めた。

 大学時の03年に友人と留学支援サービスを起業した三木さん。ホームステイなど日本から訪れた人を米国や英国、豪州などの現地で送迎、相談に応じるなど利用者目線に立ったビジネスを展開し、人気を得た。ところが体調を崩した父の得生(とくお)さん(73)の説得を受け、悩んだ末に家業を継ぐため、14年に帰国した。

 専務として入社後、取引先の染色工場が廃業した。代わりの工場を探す傍ら、従業員や取引先を見つめるうちに「チームの技術の高さ、モノの良さがあるのに世間に伝わっていない」と感じた。まず自社のウェブサイトを充実させ、新たな試作品に向けた助成金の獲得などに奔走する中で、誕生したのがエイジだ。

 その延長で23年にチームで取得した認証が、GOTS。オーガニック(有機栽培)繊維を使った商品に関する世界的な製造加工の基準の一つで、原料の70%以上がオーガニック▽強制労働・児童労働の禁止▽水・エネルギー使用量の目標設定――などを満たすことが求められる。

 国内約40社を含む世界で約1万社が取得しているが、チームでの取得は珍しいという。Tシャツなど商品ごとに認証を取得する必要があるが、商品のタグに生産に関わった企業名を入れられ、そうした商品は欧米などでは一つのステータスになっているという。

 チームの一員で裁断を担当する白鳩メリヤス(大阪市北区)は、三恵メリヤスとは30年超の付き合い。機械でTシャツ約60枚分の生地を手際よく裁断していった白石友三さん(78)は「これで売り上げが伸びてもらったらよいと思いますね」と笑う。

 インドやトルコなど海外では大規模な一貫工場が目立つというのに対し、国内は分業制で一つ一つの規模は小さく、家族経営も多い。高齢化と後継者不在は頭の痛い問題だ。

 実際にチームの一員の和歌山市の縫製工場は、経営者の体調不良で昨年12月に廃業した。相談を受けていた三木さんは、チームの別工場に機械を買い取ってもらう仲介を果たし、ひとまずサプライチェーン(供給網)を維持した。

 一方で新たなビジネスの芽も出始めている。チームに入る理解を示してくれた工場と出会い、新たに認証を取得できればプリントTシャツの展開が可能となる。着目している国内外のバイヤーからの問い合わせも増えているという。

 4~10月に開催される大阪・関西万博では大阪商工会議所などと連携し、大阪ヘルスケアパビリオンで、昔ながらの機械などを展示する予定。三木さんは「古くはなったが大切にされてきた技術にもう一度光を当てられる機会。多くの人に気付きを与えられたら」と楽しみにしている。【新宮達】

毎日新聞

経済

経済一覧>

写真ニュース