「殆ンド全滅」…120年前の手紙を解読 高校生が学んだ出征兵の死
日露戦争(1904~05年)のまっただ中に、戦地から熊本に届いた1通の手紙がある。筆書きの崩し字に文末が「候」で結ばれ、今の人たちは読み慣れていない。そんな手紙に熊本県立東稜高校(熊本市)の生徒たちが向き合った。戦争から120年。解読してみると、戦友の死をその家族に伝えようとした出征兵の思いが浮かび上がった。
手紙は、旧加茂川村(現・熊本県菊池市)出身で、激戦となった奉天会戦で26歳で戦死した氏森伊平さんの家族に宛てて送られた。長さ2メートルほどの和紙につづられ、差出人は旧加茂川村に近い旧菊池村(現・菊池市)から出征した川口仁市さん(生没年不明)。日付は05年3月12日と書かれていた。
長年手紙を保管していたのは氏森さんの兄の孫で、2023年に亡くなった一憲さん。自らが太平洋戦争で学徒動員された経験から戦争関連の資料を大切にしてきたが、10年ほど前、県内の別の高校に勤務しながら歴史資料に関心を寄せていた高木康博教諭(63)に「語り継いでほしい」と託していた。
24、25年は日露戦争の開戦、終結から120年となる節目の年で、この戦争は後の第二次世界大戦へとつながった。高木教諭は「当時の兵士がどのように戦争を捉えていたのか、年齢の近い若者が解読し、考えることに意味がある」と考え、24年度に入り、自身が顧問をしていた東稜高図書委員会「アーカイブズ班」の生徒7人に資料を渡した。
生徒たちは日ごろ、委員会活動の一環で、学校や戦争の歴史をひもとく活動をしているが、手紙の解読にあたっては「崩し字とは何か」を調べることから始まった。昼休みを利用して辞典とにらめっこ。日露戦争や地域の歴史に関する書籍を読み、氏森さんの墓や出征者の名前が刻まれた石碑の現地調査なども重ねて、初夏から10月にかけて作業した。
「伊平君とは出征以来本日まで起居を倶(とも)ニ致シ 百難を凌(しの)ぎ居り候」
手紙から見えてきたのは2人の仲の良さだった。川口さんは、古里の近さもあってか「兄弟以上」の絆で伊平さんと親交を重ねていたことを伝えていた。
「噺(はなし)も能(よ)ク合ひ申し候 實(じつ)に兄弟よりも深き中となり」
だが、「非常ナル激戦」と表現した奉天会戦のさなかの1905年3月5日、「殆ンド全滅ニ近き程の死負傷者」が出る中で伊平さんも絶命した。
「頭部ヲ貫通セラレ其場ニ斃(たお)れながら陛下の萬歳ヲ唱へつゝ名誉の戦死ヲ遂げたる」
伊平さんが死に至った状況を、川口さんは劇的に描写していた。こうした表現を、生徒たちは「たとえ真実でなくても最期の勇敢な姿を家族に伝えようとして用いたのではないか」と推察した。
戦争を深く考えるきっかけとなった解読作業。石原葵さん(1年)は「誤字があるかもしれないが許し願いたい」と川口さんが断りを入れた一節に着目。兵士の人間らしい様子、戦闘後すぐに友の死を伝えようとした思いを想像して「つらかっただろう」とおもんぱかった。中村尚道さん(1年)は自分と近い年齢の若者の死に触れ「戦争を身近に感じられた」。西島直希さん(2年)は「手紙を目にした後世の人が、悲惨な戦争を二度と繰り返してはいけないと感じることができる」と資料が受け継がれた意義を語った。
手紙を読み解いた成果は2月、県内の高校生が出場した地歴・公民科目の研究発表大会で最優秀賞を受賞した。高木教諭は「一兵士の生きた証しを伝えた人、そして資料をつないだ人がいたことで、教科書などからは知ることのできない学びがあった。生徒たちにはその意味を考えてほしい」と願っている。
資料の見学希望など問い合わせは同校(096・369・1008)。【山口桂子】
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