「思慮の浅い経営判断」 「低い人権への意識」 フジ変われるか

2025/04/01 21:09 

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 「強い組織というのは誤りを修正する力がある組織。修正する力がある組織は、必ず次の成長へと向かうことができる」。1日、東京・台場のフジテレビ本社で行われた入社式。清水賢治社長は35人の新入社員に向け、前日に発表された第三者委員会報告書についても触れて、こう励ましの言葉を述べたという。報告書で「(一連の対応は)経営判断の体をなしていない」とまで酷評された同社。「解体的出直し」(清水社長)で信頼回復を図れるのか。

 第三者委員会による調査では、中居正広氏による元アナウンサーの女性への性暴力の報告を受けた港浩一社長や大多亮専務(肩書はいずれも当時)ら幹部の人権意識に欠けた対応が次々と明らかになった。報告書によると、港氏は事実が広まってしまえば女性が自死する危険性があるとの考えから「外部に漏れたらまずい。絶対に口外するな」と大多氏らに強く指示。「女性の生命を最優先にする。笑顔で番組に復帰するまで何もしない」という「大方針」を決定した。その結果、中居氏への事実確認は行われず、同氏の番組出演も継続させた。

 報告書はこうした「大方針」について「現状を変更しないことを決定して責任を回避しようとしていた」と指摘。また、港氏ら幹部3人だけでこうした重要な判断がなされたことについて「同質性の高い壮年男性のみで行われたことに驚きを禁じ得ない」「思慮の浅い経営判断」と強く批判した。

 こうした対応については、フジ社員からも厳しい声が上がる。ある若手社員は「中居氏に弁護士を紹介するなど、大ごとにならないよう協力までしていたことに、驚きを通り越してあきれた。ひたすら隠蔽(いんぺい)して、会社のことしか考えていなかったんだと思った」と憤りを隠さない。自身もセクハラになるような言動を社内で見聞きしたといい「周りも注意せずに黙認する場面が何度かあった。報告書はフジが根本から生まれ変わらないといけないくらい厳しい内容だったが、それができるとは思えない」。別の20代の社員も「組織の体質や企業風土はすぐに変わるものではない」と声を落とした。

 3月31日に開かれた清水社長の記者会見では、参加した民放テレビ局の記者が「不適切な行為があった場合、きっぱり出演を断れるのか。結局現場任せになるのではないか」と質問。清水社長は「たとえ視聴率がとれても人権侵害のリスクを起こすなら、起用しない。何一ついいことはない。犠牲の上で成り立つのは決して許されない」と明快に答える場面もあった。しかし、ハラスメントを助長してきた組織風土を巡り、40年以上取締役を務めた日枝久氏の説明責任について問われると「取締役の個人個人が(説明責任を)持つのかというとそこまでではなく、組織として持つべきなのではないか」など、歯切れの悪さが目立つ場面もあった。

 報告書では、フジが放送したリアリティー番組「テラスハウス」の出演者が視聴者から中傷を受けた末に亡くなった問題や、旧ジャニーズ事務所での性加害問題などにも触れ、「テレビ局における性暴力・人権問題に対する意識の低さ」に言及した一節もあった。

 フジの社外取締役を務める文化放送の斎藤清人社長は1日早朝、報道陣の取材に「フジテレビに根深い環境があった。同時に放送業界全体も見られているとして、大変重く受け止めている」と厳しい表情で語った。【井上知大、西本紗保美、菅野蘭】

毎日新聞

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