AI解析、肉眼でも 地図データで遺跡「大発見時代」到来? 兵庫

2025/04/29 12:00 

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 兵庫県たつの市揖西町小犬丸の山中で3月、中世の小さな山城跡が発見された。手がかりとなったのは、県が公表している高精度三次元地図データだ。奈良文化財研究所(奈文研、奈良市)の研究グループが別の研究で人工知能(AI)に地図を解析させた際に見かけた特徴的な地形に足を運ぶと、山城と確認できた。この成果、遺跡の「大発見時代」到来につながるかもしれないという。一体どういうことなのか。

 発見された山城は車道から山中を歩いて1時間の山頂近く。斜面の一部が平らになっており、土を盛って作られた橋や堀の跡などを見つけた。堀の底から平らになっている部分までの高さは5メートルにも達したと推定されるという。

 近くでは道路跡も見つかっており、監視用の山城跡の可能性が高いと結論づけた。一方で、戦国時代のような戦闘用の拠点としては造成が不十分で、山城が発展途上にあった14世紀の南北朝時代に作られたとみられる。

 北東4キロには当時、播磨国で勢威を誇った豪族・赤松氏が拠点とした城山(きのやま)城もある。発見した奈文研の高田祐一主任研究員(歴史学)は「周辺にも山城跡の可能性がある特徴的な地形が多く見つかった。これらをつなげれば当時の勢力図の推定にもつながるのでは」と分析する。

 ◇航空レーザー活用

 高田さんらは、県が2020年から順次公開を始めた県内全域の三次元地図データを活用。AIに分析させて古墳を見つける研究に取り組んでいた。データは航空レーザーで測量したもので、平野部は1メートル四方、山間部は50センチ四方ごとに標高が分かるという。

 AIは古墳の可能性がある地形を1300カ所以上も見つけ、うち現地調査した豊岡市とたつの市では34カ所の古墳や寺院跡を確認できた。今回はその際に見かけた特徴的な地形を調べたところ、山城と確認できたという。

 ◇山間部で遺跡続々

 文化財保護法では、既に見つかっている遺跡などの周辺は「文化財包蔵地」として開発時の届け出が必要だ。文化庁によると、全国のこうした包蔵地は約46万カ所あり、毎年9000件程度の発掘調査が行われているが、多くは開発にともなう調査のため、都市部に偏りがちだ。

 遺跡発掘の空白地ともいえる山間部だが、近年、行政が地図データを「オープンデータ」として相次いで一般に利用できるようにしたことで流れが変わりつつある。地図データを活用して、考古学ファンが遺跡探しを始めているのだ。

 岐阜県飛驒市では19年度から地図データの活用を始め、一般のファンの指摘で新たに古墳や山城が見つかった。職員も奮起し、地図データを読み込み、71カ所の遺跡を新たに登録した。

 国土地理院は23年から地図データの公開を始め、3月末には公開範囲を全国の4割まで広げている。県も23年には50センチ四方の地図データまで公表。精度の高さから、AIだけでなく肉眼でも遺跡を見つけることが可能という。高田さんは「遺跡は山奥深くにあることも多く、人力では探すだけでも一苦労。三次元地図であらかじめ洗い出せれば桁違いに効率が上がる」と話す。

 今回の山城跡を高田さんと調査した県立考古博物館の永恵裕和学芸員(考古学)は「立体地図からの遺跡探しは海外でも流行している。研究や趣味だけでなく、開発に伴う調査などにも効果的に使えるはず」と期待を寄せる。【稲生陽】

毎日新聞

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