その名は「オバスターズ」 警察と地域住民がタッグ、防犯の秘密兵器

2025/05/22 08:45 

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 「早く振り込ませて!」。大阪府堺市内であった防犯イベント。特殊詐欺被害の様子を再現した寸劇で、花柄の服に身を包んだ「だまされ役」の女性の迫真の演技が目にとまった。「あのおばちゃんは一体だれ?」。取材すると、警察と地域が一丸となった“本気”の防犯活動が見えてきた。

 「もっとインパクトのある方法はないか……」。堺署生活安全課の中谷真由美巡査部長(46)は約2年前、頭を悩ませていた。増え続ける特殊詐欺被害を防ごうと、啓発イベントや掲示物で対策を講じるが効果は今一つ。多くの人の注目を集める次なる一手が必要だと感じていた。

 そんな時に出会ったのが、同市堺区内の交流サロンでボランティアをしていた宮里真澄さん(78)だった。

 宮里さんもこの時期、身の回りで詐欺被害に遭った話を聞くようになっていた。しっかりしていると思っていた知人が、数百万円をだまし取られて心を病んでしまったこともあった。

 2人はすぐに意気投合した。中谷巡査部長は「すぐに『この人や!』って。とにかく顔が広くて、本人も周りもずっとしゃべってる。この『おしゃべりの力』は使えると思いました」と振り返る。

 「防犯を呼びかける『軍団』を作りたい。10人くらい集めてよ」と冗談半分で頼んだところ、民生委員も務める宮里さんは“人脈”を使ってあっという間に15人を集めた。

 犯罪を「バスター」(追い払う)する、「スター」(星)のように輝き活躍する「おばちゃん」たち--。ボランティアは「オバスターズ」と命名され、2023年秋にお披露目された。

 地域のイベントなどで披露する寸劇の台本は中谷巡査部長が練り、架空料金を請求する「還付金詐欺」や「サポート詐欺」など手口別で4種類を用意。そこに「闇バイト」に応募した若者を登場させるなど、その時々で問題になっている要素や地域に合わせたネタを追加する。

 目指したのはヒョウ柄に代表される「大阪のおばちゃん像」とは一線を画したスタイリッシュな集団だ。堺区内のおおむね60代以上の女性を募り、現在は38人で活動する。

 舞台で演劇の経験があり、演出を担当するメンバーの丸山芳美さん(70)は「アマチュアでも人の前に立つからにはしっかり稽古(けいこ)して伝わる芝居をする」が信条だ。普段は社会福祉協議会の一室を使って繰り返し練習し、時に自宅が近いメンバー同士で自主的に集まって掛け合いの呼吸を合わせる。

 活動はメンバー自身にも意外な効果を生んでいる。寸劇などで人前に出ることが増えた結果、「服装や化粧がびっくりするほど変わってきた」と口をそろえる。宮里さんは「テレビドラマを見て役者さんの動きをマネしてみたり、声をはっきり出すことを心がけるようになったり。もう『終活』やのに、また花が咲いてきました」と笑う。

 「堺署員が38人増えたみたいに強力な味方です」と中谷巡査部長。「周りの人が活動を見て『すごいね』と言ってくれて、私は逆に被害に遭わんといてねって声をかけられる。ほんまにええ刺激になってるし、これからも元気に『おせっかい』をしていきますよ」。そう話す宮里さんの表情はキラキラと輝いていた。【斉藤朋恵】

毎日新聞

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