じめじめした季節がやってきた。

　気象庁は今月５日、向こう１カ月は気温が全国的に平年より高くなるとの予報を発表した。梅雨時は蒸し暑い日が多くなると見込まれる。

　この時期に注意しなければならないのは、「梅雨型熱中症」だ。

　そのリスクと対策を専門家に聞いた。

　◇湿度が高いと「隠れ脱水」に

　「梅雨時は熱中症になりやすくなるので注意が必要です」

　そう語るのは、熱中症に詳しい済生会横浜市東部病院（横浜市鶴見区）の谷口英喜医師だ。

　そもそも、熱中症は体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能がうまく働かなくなったりすることで発症する。

　真夏の炎天下で引き起こされるイメージが強いが、気温がそれほど高くない梅雨時にも発症する理由として、谷口医師は湿度の高さを挙げる。

　「湿度が高いと汗が乾きにくく、体温が上がりやすい。喉の渇きも感じにくく、気付かないうちに水分不足になる『隠れ脱水』に陥りやすいんです」

　めまいや吐き気、倦怠（けんたい）感といった症状は真夏の熱中症と同じだが、風通しの悪い室内でなりやすく、「脱水症状に気付かないまま、じわじわと進行することが多い」という。

　原因は、湿度の高さ以外にも考えられる。

　暑い日が続くと、人の体は数日から２週間程度で暑さに慣れる。発汗量が増えて体内の熱を逃がしやすくなったりするためだ。

　これを「暑熱順化」と呼ぶが、谷口医師は「梅雨入り前後の時期は、暑熱順化が追いついていない場合も多い」と指摘する。

　◇室温２６度でも「警戒」

　では、具体的にどんな場面で梅雨型熱中症になりやすいのか。

　熱中症のリスクを示す「暑さ指数」は、温度と湿度、日差しなどで算出される。

　梅雨時の湿度は８０％前後とされるが、例えば室内の場合、湿度が８５％になると室温が２６度でも暑さ指数が４段階で下から２番目の「警戒」領域に達し、「運動や激しい作業をする際は定期的に十分に休息を取り入れる」ことが呼び掛けられる。

　そのため、「梅雨時に運動する場合は気温が２５度を超えたら、熱中症に注意した方が良いでしょう」と谷口医師は語る。

　一方で、梅雨型熱中症のリスクはあまり知られていない。

　パナソニックが５月中旬、エアコンを持つ２０～６０代の男女を対象に実施したアンケートでは、回答した５１４人のうち、梅雨型熱中症を「言葉も内容も知っている」と答えたのは１３％しかいなかった。

　「例年、熱中症対策をしている」のは６７％に上ったが、対策を始める時期は「７～８月」が４６％で、「６月」は３５％だった。

　◇熱中症対策の前倒しを

　そこで、熱中症に詳しい一般社団法人「臨床教育開発推進機構」理事の三宅康史医師は「熱中症対策を前倒しして始めることが大切」と訴える。

　梅雨型熱中症の予防には、エアコンの冷房や除湿機能で室温・湿度を下げたり、こまめな水分補給を意識的に行ったりすることが有効だ。

　三宅医師は、目安として「室温２８度以下、湿度７０％以下」にコントロールすることを挙げる。ただ、体調や年齢などによって体感温度には個人差があるとして、暑さを感じる場合には室温が２８度になる前からエアコンを積極的に活用するよう勧めている。

　風通しが悪い室内での運動は、特に注意が必要だ。

　「屋内で作業やスポーツをする場合にはエアコンを使い、湿度も適切に管理し、体温の上昇を防ぎましょう」

　エアコンがない場合には、運動量や作業量を調整したり、冷たい飲み物で水分補給をしたりして、体温上昇を抑えると良い。

　また、暑熱順化を促す取り組みも有効だという。

　三宅医師は「意識的に体を動かしたり、ぬるめのお湯にゆっくりつかってリラックスしながら汗をかいたりすることで、暑さへの順応が促されます」とアドバイスする。【岡田英】