サステナビリティー、どう生活に取り入れる? 大学准教授が本出版

2025/07/06 06:15 

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 環境負荷を減らし、持続可能な社会を目指す「サステナビリティー」。よく耳にする言葉だが、実際の生活に取り入れるにはどうすれば? そんな疑問を身近な「食」から考えてもらおうと、九州産業大の藤原なつみ准教授(環境社会学)が「サステナビリティの隘路(あいろ)―『持続可能な消費』の実現はなぜ難しいのか」を出版した。藤原さんに新著に込めた思いを聞いた。

 「私たちの多くは持続可能な消費をしたいと思っていても、構造的な問題や情報不足によって実現できずにいる。サステナビリティーへの道のりは険しいのではないかという問いをまとめました」。藤原さんはタイトルの意図をこう説明する。

 どういうことか。藤原さんが指摘する「道のりの険しさ」を、本に登場する消費者の言葉が象徴している。

 <環境問題のことを考えれば、地元産の有機野菜を食べさせるのがいいんだと思います。でも、うちには3人子どもがいるし、食費に使えるお金って限られているじゃないですか。それって持続可能なのかなって>

 <地元産の有機野菜をほんの少しだけ食べさせるより、ちょっとくらい農薬を使っていてもいいし、冷凍食品でも輸入品でもいいから、たくさん野菜を食べてほしいって思うんです>

 藤原さんが実施したインタビュー調査で、子育て中の消費者が語った本音だ。この消費者にとってサステナビリティーと「子どもに多くの野菜を食べさせる」といった日々の生活のバランスは難しい問題。藤原さんは「持続可能性の意味が多義的であることを踏まえると、この価値観は否定されるものではない」と強調する。

 実は藤原さんも同じような葛藤を抱えてきた。大学卒業後、金融系シンクタンクに就職。2児を出産後、仕事をしながら大学院に進んだ「社会人大学院生」として研究を続けたが、自身を「サステナビリティー迷子だった」と振り返る。

 「妊娠中は『胎児のため』が最優先。産後も子どものアレルギーが発覚したり、子育てで時間をかけて食材を選ぶ時間と余裕がなくなった」。だからこそ、持続可能な消費は「個人の意欲や努力だけで解決できるものではない」と話す。

 では、どうすれば日常生活の中で無理なく取り込めるのか――。藤原さんは「例えば『何となく国産が良いと聞いたから国産を選ぶ』というより、なぜ良いかを自分で調べたり考えたりして、能動的にサステナビリティーを実現するにはどうするかを考えることが重要」と言う。特に農漁業や畜産業が盛んな九州では生産者の顔が見えやすく「生産と消費のつながりを実感し、サステナビリティーの議論がしやすい地域なのでは」とも。

 持続可能な消費を目指すことは、生活や家族を大切にしながら、一人一人がそのバランスを考え続けること。完璧じゃなくとも、今できる小さな選択を続けようと、私(記者)も意識を変えることができた。新泉社、288ページ。3000円(税抜き)。【竹林静】

毎日新聞

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