「被害に見合わない」生活再建金に不満の声も 松山城土砂災害1年

2025/07/12 05:30 

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 松山城(松山市)の城山で発生した土砂災害から12日で1年。城山を管理する同市が被災者支援の一環として創設した給付金「生活再建金」の7月時点の給付額は、予算計上額の約6分の1となっている。給付はほぼ完了しているが、申請が認められなかったり、減額になったりしたケースがあり、一部の住民からは「被害の実態に合っていない」「(給付額が)予算計上額より下回ったなら対象を拡大してほしい」といった声も出ている。市の担当者は、予算が余っても対象を拡大する予定はないと説明している。

 再建金は、土砂崩れが原因で壊れた建物や家財などの原状回復を目的に、2024年9月から申請の受け付けが始まった。市では災害に遭った場合、りさい証明に応じた「見舞金」を支給しているが、追加で新たな支援策を講じた。避難所を利用できなかった場合の宿泊費や契約駐車場の代替駐車代なども対象で、対象となった計697件のうち87件から申請の申し出があった。その後の市の精査で支払い対象と認められたのは72件。既に70件の給付は完了しており、予算計上額1億7200万円のうち、現時点の給付額は約3000万円となっている。

 ◇査定額と隔たり

 「家族との思い出が詰まった車を返してほしい」。土砂災害で被災したマンションに住む会社員、本田雅紀さん(56)は、10年ほど前に中古で購入した日産スカイラインが、土砂と壊れたフェンスに押しつぶされた。愛車はサンルーフ付きで、子どもたちが東京の大学に進学した際は夫婦で乗車して何度も往復。孫が誕生した後も買い物や旅行の交通手段はもっぱら車。ずっと乗り続けるつもりで、被災の1カ月前にタイヤを新調したばかりだった。

 市によると、再建金の給付額は項目ごとに予算額を算出。自動車・バイクの修理・購入費が最も高く1億3000万円だったが、車両保険との二重取りを防ぐため、民間の保険に加入して十分な補償が受けられる場合は除外とした。車の価値評価は「日本自動車査定協会」(本部・東京都)に依頼して算出した。本田さんは被災後に全壊した車と同じ年式とグレードの中古車を購入。購入費は120万円(諸経費を含め150万円)だったが、同協会の査定額は30万円で、加入していた車両保険(約70万円)が査定額を上回ったため、給付除外に。保険金を差し引いた80万円が「持ち出し」になってしまった。装備していたドライブレコーダーなども除外だったため、被災前と同じ状態に戻すには総額100万円以上かかった。

 本田さんは「車の市場の販売価格は70~120万円で、市から提示された同協会の査定額と懸け離れている」と主張。市は「協会は公的機関で信頼性が高い。(協会の)査定額が民間の保険金を上回った場合、その差額は給付対象になる」と説明するが、そうした事例はなく、他の申請者もほとんどが本田さんと同様のケースで、自動車の給付額は11件・約360万円だった。市の担当者は「多くの申請を見込んで多額の予算を見積もったが、車両保険加入者が想定よりも多かった」と話す。

 土砂災害発生場所の近くでエステサロンを経営する赤池悠さんも、災害で周辺が避難区域になった影響などで現地での営業ができなくなり、仮店舗を間借りして営業を継続したが収入が半減。だが、売り上げが減少した部分は再建金に該当しなかったといい、「(仮店舗への)移転費などもかかったので、少しでも支援があればよかった」と語る。

 再建金については、被災マンションの住民らによるアンケート調査でも約6割が対応に「納得できていない」と回答。市の担当者は「再建金は損害賠償金ではないので、全額補償はできない。市のルールに基づいた運用をしており、被災者には今後も理解を求めていきたい」としている。

 ◇3人犠牲の現場 市長が献花

 松山城(松山市)の城山で発生した土砂災害から12日で1年になるのに合わせ、同市の野志克仁市長が10日、3人が犠牲になった現場を訪れて献花した。

 2024年7月12日に発生した土砂災害では、城山が崩れてふもとにあった住宅に土砂が流入し、住民の親子3人が犠牲となった。

 野志市長は住宅があった現場を訪れ、花束を供えて合掌。その後、記者団の取材に「3人に哀悼の意を表し、今後も防災・減災に備えることを誓った」と述べた。【広瀬晃子】

毎日新聞

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