国連本部の「平和の鐘」に込めた思い 愛媛の高校生、万博で発信へ

2025/07/14 11:15 

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 国連本部にある「平和の鐘」を知っていますか――。「世界絶対平和万歳」と刻まれた釣り鐘。世界各国のコインを溶かして造り、9月21日の国際平和デーでは毎年、国連事務総長がこの鐘を鳴らす。鐘の寄贈者ゆかりの愛媛県宇和島市にある県立宇和島東高校の生徒らは19、20両日、大阪・関西万博の国連パビリオンでこの鐘に込められた日本人の思いを発表し、新たに鋳造した「姉妹鐘」を打ち鳴らす。今なお語り継がれる鐘への思いは。

 鐘を製作・寄贈したのは元宇和島市長の中川千代治(ちよじ)さん(1905~72年)。太平洋戦争中の42年、ビルマ(現ミャンマー)戦線で所属部隊がほぼ全滅した経験と「自分だけ生き残った申し訳なさ」から、終生不戦を訴えた。

 中川さんは日本の国連加盟の機運を高めるための財団法人「日本国連協会」代表として、51年の国連総会に自費でオブザーバー参加。さらに平和の鐘を造るため、冷戦下の欧州各国を回ってコインを集めた。鐘は高松市で、鐘楼は宇和島市で造り、日本が国連に加盟する2年前の54年に国連本部に贈った。鐘楼の礎石の下には被爆地・広島と長崎の土が収められている。

 今回、大阪・関西万博の会場で中川さんの思いを発信するのは宇和島東高国際協力部の生徒ら。2023年末、愛媛県内であった高校生の国際協力研究発表会で平和の鐘について報告。鐘は1970年の大阪万博で展示され、その姉妹鐘が大阪府吹田市の万博記念公園にあることに触れ、生徒らは「2025年の大阪・関西万博でも姉妹鐘を展示できるよう、私たちの思いを伝えよう」と結んだ。

 24年1月には中川さんの六女で一般社団法人「国連平和の鐘を守る会」代表の高瀬聖子さん(77)=東京都=が同校を訪れて生徒らのプレゼンテーションに聴き入り、会として姉妹鐘を造って大阪・関西万博に展示することを快諾した。世界各国のコインを溶かした重さ約4キロの鐘は今回の万博開幕直前の25年3月、宇和島市内のイベントで展示され、生徒らは鐘に込められた思いを市民に伝えた。

 大阪・関西万博で19、20両日にある「高校生が語る平和への想(おも)い」(国連パビリオン、国連平和の鐘を守る会主催)では、生徒らが計10回プレゼンテーションを行い、今も色あせない中川さんの不戦への願いを伝える。

 3年生の保岡優奈(やすおかゆな)さん(18)は「今は宇和島でも中川さんを知らない人が多くなりましたが、しっかりと学んで世界平和を訴えたい」、2年生の木下登桃子(ともこ)さん(17)は「冷戦下でも危険を顧みずに平和の鐘のために行動した中川さんの熱意は心に来ます」、2年生で国際協力部長の二宮啓太さん(17)は「戦争に行ったことで平和が当たり前ではない世界に失望し、自身で訴えることを決意した中川さんの思いを世界中の人に伝えたい」とそれぞれ話し、自らの言葉で語り継ぐことにしている。【松倉展人】

毎日新聞

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