障害ある人の詩に曲を付ける音楽祭 歴代会長がつないできた思い
障害がある人がつづった詩に曲を付けて歌う「わたぼうし音楽祭」。3日に50周年記念のステージを迎える。半世紀間の協奏を支え続けたのは、ボランティア団体「奈良たんぽぽの会」。その会長は障害児の親から当事者、ボランティアへと受け継がれてきた。変貌する社会の中で、音楽祭がぶれずに大切にしてきたこととは。歴代会長に聞いた。
初代会長の上埜(うえの)妙子さん(90)=奈良県生駒市。明日香養護学校に通う脳性まひの娘がいた。障害児が学校を卒業してからの居場所を作りたい。親や養護学校の教員らが協力して「奈良たんぽぽの会」を設立した。
1975年、展覧会での出会いがきっかけで、明日香養護学校の子供たちの詩にアマチュアの音楽グループ「ならフォーク村」の若者が曲を付けてくれた。子供たちの思いを多くの人に知ってもらいたいと、コンサートを開くことになった。
障害がある子供たちが主役の舞台にどれだけの人が集まってくれるのか。手探り状態で、協賛金集めや300円のチケット売りに励む日々が続いた。
「子供たちの姿をさらすのはひどいんじゃないか」。コンサートを開くにあたり、事務局に反対の声が届くこともあった。それでも当日は多くの人が列に並び、感動して涙を流す人も。大成功を収め、翌年には全国に住む障害のある人から詩を集めた「わたぼうし音楽祭」へ発展した。
上埜さんは「(奈良たんぽぽの会は)行政に対して強硬に障害者の権利・主張を訴える方法ではなく、文化や芸術によって共感と感動を生み出し、障害者への理解を広めていくことを大切にしてきた。これからもその精神を大切にしてほしい」と語る。
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「思いを遠くに」との願いが込められた音楽祭の運営はその後、広がりを見せ、当事者も巻き込んでいく。
90年代に会長を務めた山下京子さん(61)=奈良市。脳性まひの障害がある。明日香養護学校在学中からわたぼうし音楽祭の運営に関わった。20歳のときには作詩の部で入選を果たし、小さいころから憧れた舞台に立つことができた。
会長への打診があったのは大学卒業を控えた頃。社会経験もない自分には荷が重いと3年待ってもらった後、意を決して会長を引き受けた。
「元々、自己肯定感が低かったんです」。自宅近くの学校に通えず、近所に友達ができなかったなど、小さいころから社会の厳しさを痛感した。しかし、そんな自分を変えたのがわたぼうし音楽祭やそこで出会った仲間たちだった。「舞台に立ったり、音楽祭の運営に関わったりした経験が自信につながった。だからこそ、障害のある当事者としてたんぽぽの会の会長を引き受け、障害者の文化芸術活動を広めることが大事だと思った」と振り返る。
これからの音楽祭について「一人一人の魂が籠もった言葉、詩を伝えることは大事にしたい。それはずっと変わらないようにしたい」と話した。
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そして現在会長を務める辻本明彦さん(60)=大津市。高校、大学、社会人と40年以上、ボランティアとして音楽祭に携わってきた。
ただ、会長になったからといって、平日は会社勤めで活動に時間を多く取れるわけでもない。半世紀前よりは体制が整っていく中で、必要なボランティアの数も減り、自分ができることが少なくなって悩む時期もあった。それでもたんぽぽの会の会長を続けてきたのは、障害の有る無しに関わらず、多様な人たちと出会い、さまざまな面で社会とつながれることに喜びを感じられるからだ。
「障害のある人が街に出ること自体が珍しかった昔よりもインフラやサービスが充実し、今は障害者も住みやすくなったかもしれない。一方で、市民の意識はどれだけ変われただろうか」と語る辻本さん。「時代に必要なメッセージ、皆さんのハートを動かす詩を届けていく。そのためにいかに多くの人を巻き込んでいけるか。答えは模索中だが、継続して考えていきたい」。障害のある人たちが紡ぐ言葉が、この先も世界に飛び立つように。【木谷郁佳】
50周年記念わたぼうし音楽祭は3日午後2時、大和郡山市の「DMG MORI やまと郡山城ホール」で開演。当日券は一般3000円(前売り2500円)、高校生以下2000円(同1500円)。問い合わせは実行委員会(0742・43・7055)へ。
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