「自首を」 震える声で母がラジオ・街頭で訴え 熊谷ひき逃げ16年

2025/10/01 16:17 

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 埼玉県熊谷市で2009年9月に小学4年の小関孝徳さん(当時10歳)がひき逃げされ死亡した事件は、9月30日で発生から未解決のまま16年を迎えた。母の代里子さんは同日、ラジオ番組に出演した後、事件の詳細が書かれたチラシを市内で配り歩き、情報提供を呼びかけた。市民、地元議会、企業がそれぞれの立場で遺族に支援の手を差し伸べた。代里子さんは「多くの方々の思いに励まされた1年間だった」と振り返った。

 孝徳さんは09年9月30日夕、自転車で帰宅途中に熊谷市内の市道で車にひかれ、亡くなった。逃走車両の遺留物は少なく捜査は難航。19年9月、県警は容疑を自動車運転過失致死から危険運転致死(いずれも09年当時の罪名)に切り替え、公訴時効が10年延長された。だが容疑者は検挙されていない。

 代里子さんは30日、熊谷・行田両市を放送エリアとするFMクマガヤに出演。「なぜ車を止めて助けてくれなかったのですか。真実を話し、家族に付き添ってもらい自首してください」。容疑者に宛てた手紙を読み上げた。涙をこらえきれなかったのだろうか。その声は時折震え、言葉を詰まらせる場面もあった。

 ラジオ局を出た後は県警警察官ら27人と一緒に、事件現場に近い八木橋百貨店(熊谷市仲町)周辺で、孝徳さんの顔写真や現場周辺の地図などを載せたチラシを配った。代里子さんは19年から街頭やインターネット上で死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を求める署名活動を続けており、これまでに約14万8000筆を集めている。

 その願いは多くの人々に届き、事件現場から1000キロ近く離れた九州で署名活動に協力してくれる人にも出会った。長崎県佐世保市在住の画家、北原憲さん(56)。北原さんは24年9月、孝徳さんが描いた絵や、愛用していたサッカーボールなどを展示する遺作遺品展を同市内で1週間にわたって開催。来場者に署名を依頼し、128筆を集めた。

 北原さんのこうした活動は23年2月、自身のSNS(交流サイト)のフォロワーを通じて事件を知り、代里子さんに連絡を取ったことがきっかけ。北原さんは17年に母親を、21年には父親を亡くしたことを代里子さんに明かした。「私も大切な家族を失うつらさを経験したことがあります。埼玉にゆかりのない人間ですが(署名に)協力させてもらえませんか」と語ったという。代里子さんは「他人のためにここまでしてくれる人がいることに心から感謝している」と振り返る。

 代里子さんの粘り強い署名活動は、地元議会をも動かした。熊谷市議会が24年12月、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃に向けた法整備を進めるよう国に求める意見書を全会一致で可決した。意見書は、殺人罪や強盗殺人罪の公訴時効が撤廃されている一方、「死亡ひき逃げ事件は救護措置義務を果たさず被害者を死亡させ、故意に逃走を図る凶悪犯罪であるが撤廃されていない」と指摘した。

 今夏には、本庄市の印刷会社「文林堂印刷所」から情報提供を求めるチラシ約5万枚を無償提供してもらった。野坂弘幸社長(64)から「印刷会社である私たちにできる方法で事件解決に協力させてほしい」と連絡があり、6月にチラシを受け取った。チラシは、新聞各紙に折り込まれ、熊谷市全域と深谷、行田市の一部に配布された。

 公訴時効まで残り4年を切った。それでも、事件解決や時効撤廃に向けて協力してくれる人々がいることに「感謝しかない」と代里子さんは語る。寄せられた支援を力に「犯人検挙のその日まで決して諦めない」と誓う。

 事件に関する情報提供は熊谷署(048・526・0110)や、代里子さんのブログ(https://ameblo.jp/kosekitakanori/)。【加藤佑輔】

毎日新聞

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