終盤の勝ち発見できず 糸谷八段、逆転で初黒星 名人戦A級順位戦

2025/10/15 23:16 

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 第84期名人戦A級順位戦(毎日新聞社、朝日新聞社主催)の4回戦、糸谷哲郎八段―増田康宏八段戦が15日、大阪府高槻市の関西将棋会館で指され、増田八段が逆転で勝利した。開幕局から3連勝し、7回戦の渡辺明九段戦の不戦勝も確定して実質4勝を挙げていた糸谷八段は初黒星。「このままずるずる行かないように頑張ります」と次の中村太地八段戦を見据えていた。

 ◇金が前進 敵陣最深部へ

 3期ぶりにA級に復帰した糸谷八段の順位は最下位の10位。加えて、6月に日本将棋連盟の常務理事に就任したため将棋の勉強時間が大幅に削られ、名人戦の挑戦権レースは厳しくなることも予想された。

 しかし蓋(ふた)を開けてみると、1、2回戦で骨のある豊島将之九段、佐々木勇気八段を破り、3回戦は森信雄七段門下の弟弟子である千田翔太八段を長手数の即詰みに討ち取る貫禄勝ちだった。

 4回戦は、先手の増田八段が玉を矢倉に囲ったのに対し、糸谷八段は最近多用している雁木(がんぎ)の出だしから右玉に構えた。いつものように考慮時間をほとんど使わず、ポンポンと指し進める。増田八段の攻めに、本来は守備駒の金がどんどん前進。66手目には、これ以上前に進めない敵陣最深部の6九の地点に到達した。

 毎日新聞に本局の観戦記を掲載する藤原直哉七段は「この局面から見た人は6九に金を打ったと思うでしょうね。ここまで金が遠征するのは珍しいからね」と目を白黒とさせていた。

 88手まで進んだところで午後6時からの夕食休憩に入った。AI(人工知能)の形勢判断は互角を示していたが、残り時間は増田八段がわずか51分なのに対し、糸谷八段は4時間24分もあり、大差が付いた。

 ◇時間を使ってほしかった

 再開後、増田八段の93手目は角をただで捨てる3五角の大技。ただし、これを同銀と取ると、5三成銀~2三飛成が王手になる。本局最大の勝負どころを迎えたが、糸谷八段は13分の少考で8六歩と敵玉頭の歩を取り込み、一気に決着をつけにかかった。

 糸谷八段が優勢のまま最終盤に突入。ところが、本局で糸谷八段の3番目の“長考”となる16分考えて打った6九角が痛恨の敗着となった。正解は考慮中に比較していた5九角だった。

 「少し悪そうな中盤から、一直線の順(進行)になったところは少しよくなったかなと思ったが、最後、勝ちを発見できなかったのが厳しかった。6九角の方が決まっているのかと思ったのが敗因」と振り返った。

 一方、2勝2敗のタイに戻した増田八段。「夕休のあたりでは難解な局面だと思っていたが、糸谷さんがすごく早く指されるので、もうちょっと時間を使ってほしいなとは思っていました。こちらが悪そうになってきたので、自分の方が手が見えてない感じがしていた。(糸谷八段の)6九角なら、本譜の順で自玉が詰まなければ大変に見えて、急に、行けるどころか、勝ちになった気がした」と、逆転した時の手応えを語った。

 開幕局に勝利しながら、その後は連敗。アウェーで、しかも初対局となる関西将棋会館で嫌な流れを断ち切った。「星取りはずっと意識しています。3敗になると挑戦どころか残留争いになるので。今日は拾ったような勝ちだったが、大きな1勝だった」と少し安堵(あんど)の表情を見せた。【新土居仁昌】

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