「見えない菌類に無限の可能性」 酒造り学ぶ高校生の原点と目標
農業や食に関する体験や提言をつづる「第53回毎日農業記録賞」(毎日新聞社主催、農林水産省・兵庫県・兵庫県教委など後援、JA全中など協賛)で、兵庫県立農業高校(加古川市)3年、鷲野咲和(さわ)さん(18)の「蔵と田んぼと学校と」が高校生部門の優秀賞に選ばれた。喜びの声を紹介する。
校内の同好会「発酵技術研究会」の活動で地元の酒蔵に通って酒造りを学び、農家と一緒に酒米の栽培や品種改良にも取り組む。高校生活は醸造の世界に浸りきった。「目に見えない菌類に無限の可能性があることを知ってもらえたらうれしい」。作品に込めた思いをこう語る。
酒造りや酒米の品種改良は県農の生徒が代々引き継ぐ活動だ。「私もやりたい」と手を挙げたのは子供の頃から菌類に関心があったから。母に手を引かれて里山を歩いていた時、足元で木漏れ日に照らされたキノコを見つけて目を奪われた。その神秘的な光景が原点になった。
高2の冬は毎日のように酒蔵に通った。体力的に最もきついのはタンクに入った醪(もろみ)をかき混ぜる作業だ。やがて醪からふつふつと泡が出始める。「やはり酵母は生きている」と実感した。アルコール度数などの数値の変化を確認しながら「遠くの世界にいる酵母と会話している感覚」になった。
瓶詰めの日。パイプから流れてくる日本酒が次々と瓶に満たされる。持ち帰って母に飲んでもらった。「おいしいよ」と笑顔。胸がいっぱいになった。
酒造りの課題も知った。特産品の酒米「山田錦」は近年の異常気象で品質を保つのが容易ではない。日本酒の消費量も減少が続く。「廃業する蔵があるかもなあ」。蔵人(くらびと)が漏らした言葉にショックを受けた。
県農生と地元農家が取り組む酒米の新品種開発は着実に進んでいる。「播磨は酒造り発祥の地。1300年の歴史をもつ伝統産業を守り、知恵と技術を次の世代につなぎたい」。そんな目標を胸に酒蔵と田んぼと学校を行き来する日々を送る。【村元展也】
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