「残念ですが、時代の流れ」 関西最後の新聞・雑誌の駅売店が閉店へ
近鉄大阪阿部野橋駅(大阪市阿倍野区)の構内にある新聞・雑誌のスタンド売店2店舗が25日、営業を終了する。昭和の時代から親しまれてきたが、スマホの普及などで売り上げが減少していた。近畿の駅構内では最後のスタンド売店で、常連客に惜しまれながら姿を消す。
同駅のスタンドに男性客が近づくと、男性店員(46)がすっと雑誌を差し出した。客は代金を渡して去っていく。あうんの呼吸だ。男性店員は「常連さんで、顔を見れば買ってくれるものは分かる」と言う。
1日の乗降客数14万人と近鉄最多の同駅構内には1階と地下に計2店舗がある。近鉄によると、駅構内でスタンドがいつからできたのか記録はないが、1963年の写真には記録されており、その前からあったとみられる。
スタンドは経営者が変わりながら続いてきた。現在の運営会社「親栄会」は石原聖子社長(49)の父の代から38年間、2店舗を切り盛りしてきた。夕方4時ごろから木製のワゴンに板を並べ、新聞・雑誌やカレンダーなど約100種類を置いて午後10時過ぎごろまで店を出す。
1階の店舗に立つのは石原社長の母(81)だ。60年前から断続的にスタンドで働いてきた。次々と新聞などを求める乗降客に、釣り銭を準備し、販売員3人で対応に追われた時代もあった。しかし、近年は売り上げが減少。「悔しいのはコロナ禍。緊急事態宣言でそれまで雑誌を買ってくれていた人が外出しなくなり、読むのを止めてしまった」と男性店員。石原社長は「残念ですが、時代の流れでしょうか」と話す。
今月になって閉店の張り紙を出し、常連客から言葉を掛けられたり、差し入れを渡されたりすることも多くなった。この日も、沿線の大学教授(62)が女性販売員に差し入れをして別れを惜しんだ。「いつも服なんかをほめてくれたのがうれしかったのに、対面で言葉を交わせる店が無くなるのは僕ら世代にはさびしい」という。石原社長の母は「涙が出ますね」。
米田徹駅長(59)も「販売員さんとちょっとした会話をいつもしていたのに残念だ」と惜しむ。
新聞即売の関係者によると、駅構内のスタンド売店はもう残っていないという。石原社長は「支えてくれた常連さんや、従業員に感謝したい」と話した。【亀田早苗】
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