鳥山まことさん「建築と小説両立」 第174回芥川賞・直木賞決まる
第174回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が14日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞に鳥山まことさん(33)の「時の家」(群像8月号)と畠山丑雄(はたけやまうしお)さん(33)の「叫び」(新潮12月号)、直木賞には嶋津輝(てる)さん(56)の「カフェーの帰り道」(東京創元社)が選ばれた。鳥山さんと畠山さんは初、嶋津さんは2回目の候補での受賞。贈呈式は2月下旬に都内で開かれる。
鳥山さんは兵庫県宝塚市出身。京都府立大卒、九州大大学院修士課程修了。2023年、「あるもの」で三田文学新人賞を受賞し作家デビュー。大学で建築を学び、1級建築士の資格を持つ。現在、建設会社に勤めながら執筆を続ける。
受賞作「時の家」の舞台は取り壊しが決まった築40年の空き家。この家に忍び込んだ青年がスケッチブックに書き留めていく家の細部と、その手触りとともに、かつて暮らした3代の住人たちの物語が立ち上がる。過ぎた時間、場所や空間に残る記憶が端正な描写によって再現される。
記者会見で、鳥山さんは関係者や家族への感謝の言葉を述べた後、「建物を設計するという仕事、行為は小説の執筆の手順、考え方に自然と影響している」などと話した。今後も建築と小説を「しっかり両立したい」とかみ締めた。
◇畠山さん「午年に取れたのは…」
畠山さんは大阪府吹田市生まれ。京都大文学部卒。大学在学中の15年、「地の底の記憶」で文芸賞を受賞し、作家デビュー。24年の「改元」で三島由紀夫賞候補に挙がっている。
受賞作「叫び」は、大阪府茨木市で公務員として働く早野ひかるが主人公。郷土史を学び、戦中の旧満州(現中国東北部)で阿片(あへん)の原材料・ケシの大量栽培を夢見た青年の存在を知る。青年は1940年に開催予定だった幻の「紀元二六〇〇年記念万博」を楽しみにしていた。25年開催の大阪・関西万博へと2人の思いは重なっていく。土地に根ざした歴史が掘り起こされ、現代と響き合う作品だ。
ペンネームに、マイペースに牛のように進んでいくとの意味を込めた畠山さんは「(デビューから約10年間)書きたいものを書いてこられた。世間に拾い上げてもらえて光栄」と喜び、「(「丑」と対照的な)午(うま)年に取れたのは出来すぎかな」と笑いを誘った。
◇嶋津さん「今が青春」
直木賞の嶋津さんは東京都生まれ。投資会社勤務だった41歳の時、リーマン・ショックで仕事が減り、小説教室に通い始めた。16年に「姉といもうと」でオール読物新人賞。19年に受賞作を収録した「スナック墓場」でデビューした。23年刊行の「襷(たすき)がけの二人」以来、2度目のノミネートで射止めた。
受賞作は、大正から昭和にかけての東京・上野にある「カフェー西行」が舞台。穏やかな空気が流れ、人々の憩いの場だったが、やがて戦争の足音が近づいてくる。作品では店で働く個性豊かな女性たちの日常を細やかに描き出した。
嶋津さんは、受賞作の表紙の色と合わせたかのような深緑色のワンピース姿で「緊張で気絶寸前です」とはにかんだ。会社員生活とは一転し、小説の世界では叱られたり、評価されたりと感情がめまぐるしく動くように。「『今が青春』と感じる。面白い人生だと思います」と控えめに笑い、「いつか実在の人物を書いてみたい」と話した。【棚部秀行、松原由佳】
◇芥川賞選考委員・平野啓一郎さんの話
畠山作品は諧謔(かいぎゃく)味のある文体で、物語の推進力もあり、低俗な話から郷土史にアクセスしつつ戦中の旧満州にまで話を展開していくスケールの大きさがあった。(作中の)「聖(ひじり)」というキーワードがよく分からないという意見もあったが、意味をことごとく無効にしつつ、何が描けるかを突きつけているところに魅力を感じた。
鳥山作品は一つの家を舞台にそこに住んできた人々の営みを描く書き方で、新しい試みという評価があった上で、それがうまくいっているかどうかで評価が分かれた。冒頭は立ち上がりが遅く、もどかしく感じるとの意見もあったが、スピードが求められる世の中で、ディテールにこだわって描写し尽くし、それを作者が強い意志でやり抜いたことを評価する声があった。
◇直木賞選考委員・宮部みゆきさんの話
嶋津作品は全てのバランスがよく、素晴らしかった。連作短編集としてのつながり方は品がよく、登場する女性らが一編一編の主役として語り尽くされていた。読みながら自分自身の身近な人や住んでいる町の歴史、楽しい思い出、悲しい思い出などを重ねることができた。傾向が違う作品がそろう中で「ど真ん中」の作品と思った。
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