衰え知らずの闘争心 テレビ番組でも活躍 加藤一二三さん死去
「ひふみん」の愛称で広く親しまれた将棋棋士九段の加藤一二三さんが86歳で亡くなった。現役時代は勝利への強い執念を見せた一方、盤を離れると勝負師とは正反対のおどけたキャラクターでテレビ番組に出演し、人気を集めた。
史上初の中学生棋士としてデビューし、史上最年少の20歳3カ月で名人に挑戦するなど、棋士人生は華々しい滑り出しを見せた。しかし、全盛期の大山康晴十五世名人の壁を崩せず、初タイトルは29歳、初名人は42歳と出遅れた。
印象的なタイトル戦は、1982年の第40期名人戦の10局にわたる死闘だ。勝負の決着がつかない「持将棋」や「千日手」が3回あり、最終局は真夏の7月末だった。挑戦を受けた中原誠十六世名人は「暑い時期になっても闘志が全く衰えず、腰を落としてじっくり考える姿が印象的だった」と振り返る。その最終局で、加藤さんは熟考の末に勝ち筋を見いだし、悲願の名人をたぐり寄せた。
勝負に集中するあまり、数々の伝説も残した。集中力がそがれるからと庭園の滝の水を止めさせ、読みに必要なエネルギーを補給するためにチョコレートやミカンを山ほどほおばり、ズボンをたくし上げて気合を入れた。相手の気持ちになって考えようと盤の反対側に回り込む手法は、「ひふみんアイ」と呼ばれた。
銀を真っすぐ繰り出す「棒銀戦法」を最も優れた戦法と信じてこだわり、色紙にも「棒銀一筋」と揮毫(きごう)した。自身の最年少デビュー記録を更新した藤井聡太名人(23)との対戦でも闘志をむき出しにし、敗れた後も「次に対戦する時は負けない」とあらゆる場で繰り返した。60年以上にわたる棋士生活は、羽生善治九段も「私自身、そこまで長い期間、闘争心が続く自信がない」と舌を巻くほどだ。
輝かしい成績を残した棋士としては珍しく、バラエティー番組にも積極的に出演した。きっかけとなったのはクイズ番組。「間違えるなら派手に間違えた方がいい」と堂々と誤答を書き、視聴者を楽しませる喜びを知った。そのサービス精神で、引退後もひっきりなしに舞い込む依頼を次々と受けては全国を飛び回り、「現役の時以上に忙しい」とうれしい悲鳴を上げていた。自由奔放さを魅力に変え、最後まで全力で走り続けた生涯だった。【丸山進】
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