「生きて妹に」 拉致被害者の田口八重子さん、救出求め続ける兄
20年以上にわたって埼玉県のJR川口駅前などに立ち、北朝鮮による拉致被害者の救出を求める署名活動を続けてきた人がいる。拉致被害者で川口市出身の田口八重子さん(失踪当時22歳)の兄、本間勝さん(82)=千葉県=だ。田口さんの3人の兄のうち、拉致問題解決に尽力してきた2人の兄は他界した。「兄たちが果たせなかった妹との再会を必ず自分が成し遂げる」。本間さんは家族の遺志を受け継ぎ、街頭で声を上げ続けている。
「私は拉致被害者の家族です。どうかご協力をお願いします」。1月上旬、川口駅前で、本間さんや同市に関わりのある特定失踪者の家族らでつくる「拉致問題を考える川口の会」の約10人が、今年初となる街頭署名活動に臨んだ。厳しい寒さの中、本間さんは田口さんの写真パネルを抱え、救出を求める署名を呼びかけていた。
同会の署名活動が始まったのは2004年。毎月第1日曜日に川口駅前などで活動を行い、これまでに33万筆以上の署名を集めた。活動には特定失踪者の新木章さん(失踪当時29歳)の家族らも参加し、被害者の帰国実現を訴えてきた。
田口さんは7人きょうだいの末っ子。東京・池袋の飲食店に勤務していた1978年6月ごろ、当時1歳だった長男の耕一郎さんら幼い子ども2人をベビーホテルに預けたまま、突然消息を絶った。
拉致が発覚するきっかけは、87年に起きた「大韓航空機爆破事件」だった。実行役の金賢姫(キムヒョンヒ)元死刑囚は、日本語などを教わった李恩恵(リウネ)という女性の存在を供述。警察庁は91年、李恩恵を田口さんの可能性が高いと発表した。
02年の日朝首脳会談で北朝鮮はようやく拉致を認めたものの、田口さんを含む被害者8人については死亡したと説明した。
北朝鮮側の一方的な説明に本間さんは到底納得できなかった。「八重子は必ず生きている」。その確信を胸に、長兄の飯塚繁雄さんらとともに実名を公表し、拉致被害者家族会に参加。救出を求める活動に身を投じた。
飯塚さんは07年から14年にわたり家族会の代表を務め、解決のために奔走したが、妹との再会を果たせぬまま21年に死去。次兄の進さんも14年に他界した。本間さんは「八重子が帰国した時、兄たちがもうこの世にいないことを知ればどんなに悲しむことか……」と声を落とす。
駅前での活動を続ける中で痛感しているのは、拉致問題の風化という課題だ。以前に比べ、足を止めて署名してくれる人の数は目に見えて減った。
「私も含め、被害者家族は高齢化が進んでいる。時間がないのです」と語る本間さんが政府に求めるのは、停滞した状況を打破する首脳会談の実現と、被害者の即時帰国だ。
「自分が生きているうちに、どうしても八重子に会いたい」
妹と再会するその日まで、本間さんの活動は続く。【加藤佑輔】
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