もう一度ドームへ マツゲン箕島の元オリックス右腕が挑む日本選手権

2025/10/28 09:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 活躍を夢見たマウンドにもう一度上がる時が来た。

 プロ野球・オリックスに入団したが、大成しないまま昨シーズン限りで退団した。それから約1年。28日の社会人野球日本選手権の開幕戦に臨むため、かつて所属していた球団の本拠地・京セラドーム大阪に再び足を踏み入れる。182センチ、101キロの右腕は「元気な姿、進化した姿を見せたい」と闘志を燃やす。

 「体が動かなくなるまで野球を続けたい」

 和歌山市内から車で約1時間。和歌山県有田市郊外にあるクラブチーム「マツゲン箕島」の本拠地グラウンドでは10月上旬、主にリリーフを任される中田惟斗投手(24)が日本選手権に向けて黙々と汗を流していた。

 ◇育成指名→5年で戦力外通告

 最速は153キロ。大阪桐蔭高時代の2019年秋、オリックスから育成3位でドラフト指名を受けた。だが、ひじの故障もあって思うような結果を残せず、24年オフに戦力外通告。5年間で一度も支配下登録されることなくグラウンドを去った。手術したひじの傷が癒え、球速も150キロを連発している最中のことで「『クビはないやろう』と思っていた。驚いた」。

 当時23歳。「純粋に野球が好き。まだまだ選手としてプレーできる」。他球団のトライアウトを受験した末、オリックスの球団スカウトの勧めもあって今年から出身地、和歌山で現役を続ける道を選んだ。

 マツゲン箕島は、1970年代に春夏の甲子園を4度制した地元の箕島高OBらで創立した「箕島球友会」が前身で、スーパーチェーン「松源」(和歌山市)が支援する。選手は早朝から店舗などで業務に携わり、午後からは暗くなるまで野球に打ち込むハードな日々を送る。

 ◇農産物収穫や鮮魚担当も

 中田投手もナスやピーマンなどの農産物を収穫したり、鮮魚をさばいたりと慣れない作業に悪戦苦闘するが、「なじんできたのかな」と笑みを浮かべる。かつてのトレーニング環境とは異なるが、プロ選手が配信する動画でストレッチの方法などを研究し、けがをしない柔軟性を身につけた。

 ただ、アマチュア野球も甘くない。元プロ選手でも打ち込まれることはある。

 日本選手権への出場権を懸けた9月の全日本クラブ選手権。1回戦は六回から登板し、先頭打者に本塁打を浴びるなど被安打3で1失点。1死も取れずにマウンドを降りた。「鼻をへし折られたのは良かったのでは」と西川忠宏監督はさらなる成長の糧ととらえつつ、プロの厳しさを知る中田投手について「パフォーマンスの高さはチームの刺激になっている」と評する。

 ◇プロとは違う喜び

 クラブ選手権ではその後登板した準々決勝、決勝で無失点の好救援を見せて存在感を示した。

 「負けたら終わりのトーナメントで、大人が本気で野球をやっている。チームとして勝てたときはうれしい」。個人成績も重視するプロとは違った喜びを味わう毎日だ。直近は球速も上がり、「チームを勝たせる投球で結果を出したい」。苦難も経験した右腕が、待ち焦がれたひのき舞台であきらめない姿を見せる。【藤木俊治】

毎日新聞

スポーツ

スポーツ一覧>