徹底研究で松山東が強豪撃破 21世紀枠「最後」の勝利

2026/03/20 06:30 

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 19日に開幕した第98回選抜高校野球大会には21世紀枠で長崎西と高知農が出場する。センバツに21世紀枠が導入されてから、四半世紀が経過した。21世紀枠を巡る出来事を振り返り、制度が果たしてきた役割を考える。

 11年前の歴史的な1勝。現在、京都大大学院に通う向井飛雄(ひゆう)さん(27)は「相手への事前分析はほぼ当たった。失敗できないプレッシャーがあったのでホッとした」と振り返る。

 2015年の第87回選抜高校野球大会で、21世紀枠で82年ぶり2回目の出場の松山東(愛媛)は1回戦で二松学舎大付(東京)を5―4で撃破。当時、松山東の新2年生の向井さんはベンチ外ながら、データ班のリーダーとして相手を映像などで研究し尽くし、番狂わせの陰の立役者となった。

 例えば、相手のエース左腕・大江竜聖投手(現ソフトバンク)について「球種で投げ方に違いはないが、投球前の仕草や配球などに特徴があった」と明かす。

 その一つが「捕手のサインに首を振ったらスライダーの確率が高い」。2―1の六回表無死一、三塁、エース右腕で5番打者だった亀岡優樹さん(28)は「追い込まれての4球目、大江投手が首を振ったのでスライダーを狙った」と捉え、左越え2点二塁打を放った。

 ◇相手エースの癖を見抜く

 データ班は14年夏に当時の3年生たちで発足し、同年秋に向井さんら1年生4人で再出発した。15年1月23日にセンバツ出場が決まると31校のデータや映像を集めて研究を始め、組み合わせの決まった3月13日から二松学舎大付に絞った。

 16日に大阪入りした後は、試合日の25日まで「僕らは食事と練習以外、深夜までほとんどホテルの部屋で研究した」と向井さん。

 当時チームトレーナーでデータ班を手伝った川中大輔さん(49)は「深夜に彼らの部屋に行ったら、向井君が疲労で通路に倒れていた」と振り返り、試合数日前のミーティングは「相手の研究を終えたため、亀岡投手の球種や配球など自チームを研究した」。まさに敵を知り、己を知っての必勝態勢だった。

 主将だった米田圭佑さん(28)は捕手として「相手打者の立ち位置、打球方向、得意・苦手の球種・コースなど細かい分析は役立った」と感謝する。早稲田大で野球を続けた際に「松山東データ班の資料は強豪大学のそれと遜色ないレベルだったと気づいた」とも語る。

 16三振を喫しながら「準備がはまった」(川中さん)勝利の松山東。これがセンバツで21世紀枠校が一般枠選出校に勝った最後だ。

 21世紀枠は01年の第73回大会で始まり、困難条件克服▽地域への好影響――など特色のある学校を2校(08年から3校で13年と21年は1枠増。24年から再び2校)選出。推薦校対象は秋季都道府県大会16強(加盟校129校以上の場合は同32強。当初は同8強)で、戦力評価の選考ではない。

 ◇過去に2校が4強に進出

 それでも当初は21世紀枠校が健闘し、01年の宜野座(沖縄)と09年の利府(宮城)は4強。08年に3校とも初戦突破したのを含めて07年から5年連続で勝った。しかし、12年以降の白星は松山東を除くと3度の21世紀枠対決しかない。

 惜しい試合は少なくない。19年の石岡一(茨城)は盛岡大付(岩手)に2―3で延長十一回サヨナラ負けし、21年の東播磨(兵庫)は準優勝した明豊(大分)に9―10で延長十一回サヨナラ負け。24年の田辺(和歌山)は前年秋の明治神宮大会覇者・星稜(石川)に2―4で競り負けた。

 ◇走塁を武器に接戦

 21世紀枠校として1試合最多得点を記録した東播磨の福村順一監督(53)は甲子園に2度出場した加古川北(兵庫)の監督時代から、走塁に特化したチームを作ってきた。

 県立校で練習時間は平日約2時間、グラウンドは他部と共用といった環境でも「走塁練習はできる」ためだ。走る際にバットを置く位置、ベースの回り方、滑り込み方などまで研究していた。

 さらに「走塁のチームという情報は武器になる」と強調。明豊戦で12四死球を得たことも「相手投手が走者を意識し、打者に集中できなかったため」と指摘する。

 東播磨は2盗塁を決め、1点を追う九回1死三塁から三ゴロで三塁走者が生還するなど「ゴロ・ゴー」(内野ゴロで三塁走者が本塁突入)を2度成功させた。「21世紀枠選出を見越して前年11月から半年近くかけ、ランナー三塁から点を取る練習を重ねた」成果だった。

 松山東は分析力、東播磨は走力と一点を徹底した。「激務を体力勝負で乗り切ったデータ班の経験は今の研究生活に役立っている」と向井さん。ベンチ外部員の重要性を示す好例ともなった。福村監督は「21世紀枠は勝ち負けではなく、強豪に立ち向かう姿に意義がある」と訴える。

 今大会で長崎西と高知農はどんな戦いを見せてくれるだろうか。【来住哲司】

毎日新聞

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