出版社を退職、アルバイト…夢かなえて開設したホステルにコロナ直撃
初めてのお客さんは、まさかのブルネイ人だった。
2014年12月にオープンしたホステル「UNTAPPED HOSTEL」(アンタップトホステル、札幌市北区)。経営する神輝哉さん(44)はスタッフと予想していた。
「海外から来る最初のお客さんはどこの国の人か」。中国など大方の予想を裏切り、東南アジアの小国・ブルネイからの男女2人が記念すべき第1号の宿泊客となり、ホステルの歴史が幕を開けた。
神さんは札幌市出身。市内の高校を卒業後、1年浪人して、東京の大学に進学した。
バックパックを背負い、初めて海外へ一人旅に出たのが19歳の頃。学生の貧乏旅ゆえ、泊まるところはドミトリー(相部屋)主体のゲストハウスやホステルだった。
いわゆる安宿だが、共有スペースには世界各国から来た宿泊客が集まり、「交流の輪」が広がる魅力があった。
アメリカやヨーロッパ、アジアなど40カ国以上を訪問。ドミトリーで知り合った他国の宿泊客らと連れだって食事をしたり、酒を飲んだりした。
自身の語学力では政治や文化、哲学などの会話は難しく、歯がゆい思いをしたことも事実。しかし、ちょっとした会話や交流が楽しく、心地よかった。
「ホテルは基本、泊まるだけだけど、ゲストハウスやホステルは泊まること自体で交流が生まれる。全世界に友人ができ、今もそのつながりが残っている。日本にはあまりないカルチャーだと思い、機会があれば、日本でやってみたいと思った」
当時はまだ漠然としていたけれど、新しい夢が生まれた瞬間だった。
◇突然訪れた転機
大学卒業後、出版社「主婦の友社」(東京)に就職し、営業マンとして書店や取次店を回った。
好きな本に囲まれ、何の不満もない日々だったが、建築業をしていた父の背中を見て育ち、幼いころから持っていた「自分も独立し、何か商売をしてみたい」という思いは絶えず抱えたままだった。
転機は突然、訪れた。10年5月、東京と札幌で遠距離恋愛をしていた幼なじみと結婚。いずれ地元に戻りたいと思っていたことも重なり、退職を決意した。
会社には「宿をやります」と宣言。夫婦の古里である札幌に戻ってきた。
とはいえ、宿泊業のノウハウはなく、約10年間の東京生活で札幌での人とのつながりも希薄になっていた。このため、まずはホステル経営につながるようなアルバイトに取り組んだ。
外国人旅行者の集まるニセコエリアの飲食店や札幌市南区の温泉施設、ススキノ地区のゲストハウスなどで働き、宿泊業のノウハウを学ぶとともに、新たな人とのつながりが生まれていった。
◇名前に込めた思い
開業資金を準備し、満を持して飲食店兼住宅だった5階建てビルを購入。オープンまでの半年間は連日連夜、ビルの改装工事に参加した。
自分自身も参加することで、ホステルに魂が宿ると信じた。
ホステルの名前には、「未開発」「まだ見つかっていない」という意味の「UNTAPPED」を冠した。
「北海道や札幌、そして旅人にはまだ見つかっていない可能性がある。この宿に来て、人と出会い、その可能性を見つけるきっかけにしてほしいと考えた」
1階が飲食店、2階が共有スペースで、3~5階が宿泊スペースとなっている。計26ベッドのうち、20ベッドがドミトリーだ。
「経営を続けていける程度にはお客さんも増えていった」。学生時代に抱いた夢を実現し、順調なスタートを切った。
16年には裏の民家を借り受け、宿泊スペースを拡大。しかし、一転して倒産の危機を迎えることになる。
新型コロナウイルスによる世界的な活動自粛だ。【高山純二】
◇神輝哉(じん・てるや)さん
1980年9月生まれ。札幌市出身。札幌旭丘高、早稲田大卒。株式会社「PLOW」(プラウ)の社長として、ホステル「UNTAPPED HOSTEL」、書店「Seesaw Books」、終活サポート「ぴーぷる」の3事業を展開。年2回、炊き出し「おおきな食卓」も行う。
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