「鉄は国家なり」伊藤博文が評した業界で繰り返す再編の背景は?
日本製鉄がUSスチールを完全子会社化した。141億ドル(約2兆円)の大型買収により、粗鋼生産量で世界4位の日米連合が誕生した。背景には、「国家」にも例えられた産業を取り巻く環境の変化がある。
◇世界最大級の高炉
ドロドロに溶けた鉄が、オレンジ色の光を放つ。ここから不純物を取り除いて鋼となり、さらに鋳造や圧延、表面加工を経て、さまざまな製品へと形を変えていく。
5月下旬。千葉県君津市にある日鉄の製鉄所では、炉内容積5555立方メートルと世界最大級の高炉が粛々と稼働していた。
操業が始まった1960年代後半には、1日当たりの粗鋼生産量で6200トンと世界最大を誇った、日本を代表する製鉄所だ。
主力製品の一つが、自動車用の高張力鋼板(ハイテン材)。薄くて丈夫で、加工もしやすい。車の軽量化や燃費性能の向上に欠かせない素材だ。より強度に優れた「超ハイテン」の生産も手がける。
「トヨタ自動車が世界で強くなったのもハイテンのおかげ」(自動車部品メーカー首脳)とも言われる。それを日々、ここで生み出している。
◇生き残りへ再編
「鉄は国家なり」
1901年、日本初の近代的製鉄所「官営八幡製鉄所」(現日鉄九州製鉄所八幡地区)の火入れ式で、初代首相の伊藤博文はそう述べたという。
戦前・戦後を通じて日本経済を支えた鉄鋼産業は、長らく国力そのものを象徴する存在だった。
だが、70年代のオイルショックを経て国内需要は頭打ちに。85年のプラザ合意後の円高、90年代のバブル崩壊後の景気減速などで「鉄冷え」の時代が続いた。2000年代からは韓国や中国勢との競争も激化した。
02年に当時の川崎製鉄とNKKが経営統合し、JFEホールディングスが発足。12年には当時の新日本製鉄と住友金属工業が合併し新日鉄住金(現日鉄)が誕生するなど、大手各社は生き残りへ再編を重ねた。
国内鉄鋼需要が先細りするなか、70年代に6社あった高炉メーカーは現在3社のみだ。
◇成長求めて海外へ
19年4月、当時の新日鉄住金は日本製鉄へ社名を変えた。同時に社長に就いた橋本英二氏(現会長兼最高経営責任者)は製鉄所閉鎖を含む大リストラを断行。全国に14基あった高炉を10基に減らし、国内生産量も20%減の年4000万トンにした。
代わりに米国やインドなど成長が見込める地域での現地生産を加速する戦略を打ち出すと、19年に当時の世界最大手、欧州のアルセロール・ミタルと組み、インド鉄鋼大手エッサール・スチールを約7700億円(当時)で買収した。
インドは経済成長に伴い鉄鋼需要の増加が見込まれる半面、政府が「メーク・イン・インディア」を掲げて自国産業を保護し、国内需要のほとんどを自国産品で賄う。日鉄は「インサイダー(現地企業)として一貫製鉄所の運営で臨まねばならない」(橋本氏)と腹をくくり、高炉や製鉄所の新設を進めている。
こうしたなかで23年12月に発表し、約1年半がかりで成就させたUSスチールの買収も“現地化”戦略の一環と位置づけられる。
日鉄は「総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカー」を掲げ、世界全体での粗鋼生産能力を現状の年間6600万トンから1億トンに高める計画。約2000万トン規模のUSスチールを手中に収め、今後は老朽設備の更新とともに製鉄所の新設も視野に入れている。【成澤隼人】
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