日鉄のUSスチール買収「米政府の介入は疑問」 野村総研・木内氏

2025/06/19 15:57 

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 日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールの買収を完了した。米政府の影響力がにじむ案件となったが、日本企業の対米投資は萎縮しないか。世界の政治・経済に詳しい野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストに聞いた。

 日本製鉄は粘り強い交渉と条件面での譲歩を重ね、米政権から完全子会社化の承認を引き出した。トランプ米大統領は最終的に巨額投資による経済的メリットを重視したが、そもそも米政府がこれほどまで民間企業の買収案件に強く介入したことは非常に疑問だ。

 黄金株や国家安全保障協定といった枠組みは国民を納得させるための形式的なもので、実効性は高くない可能性がある。とはいえ、トランプ政権の不確実性はリスクとして残る。黄金株の拒否権によって経営を大きく制約されたり、米国の安全保障政策や軍事動向に影響を受けて経営がゆがめられたりする恐れもある。

 日鉄は目標としたUSスチールの完全子会社化を実現させたが、条件面では米国側にかなり譲歩した。トランプ政権の政策や言動は一貫性を欠くため、今後も日本企業が米国ビジネスに積極的に乗り出すことは難しい状況が続きそうだ。

 日本政府は、今回の買収を通じた対米投資は米国経済に貢献するとアピールするだろう。しかし、トランプ氏は投資よりも貿易赤字の縮小を重視しており、日米関税協議に与える影響は限定的とみている。【聞き手・成澤隼人】

毎日新聞

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