韓国トップクリエイターが語る“ヒットの条件” ディズニープラス×TVING発表会レポート

2025/11/05 14:53 

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「ディズニープラス×韓国TVING」提携の会見に出席した(左から)イ・ウンボク氏、チン・ヒョク氏、オ・グァンヒ氏、イ・ヘヨン氏 (C)ORICON NewS inc.

 ウォルト・ディズニー・ジャパンと韓国の大手エンターテインメント企業CJ ENM傘下の動画配信サービス「TVING(ティービング)」がコンテンツパートナーシップを締結。きょう5日から、TVINGオリジナル作品やCJ ENM制作の人気ドラマなど約60作品が、動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」内の「TVINGコレクション」で順次視聴可能となる。

【画像】第1弾として配信される韓国ドラマ『親愛なるX』

 きのう4日、都内で発表会が開催された。ウォルト・ディズニー・ジャパンの日色保代表取締役社長、TVINGのジニー・チョイCEOに加え、オリジナルドラマ『親愛なるX』『悪党たち』『ロト1等も出勤します』『調理兵、伝説になる』を手がける監督・プロデューサー陣が登壇し、作品づくりへの想いや、日韓ドラマの共通点・違いについて熱く語った。

■イ・ウンボク監督「大事なのは“人そのもの”を描くこと」

 11月6日から韓国と同時に配信開始となる新作ドラマ『親愛なるX』のイ・ウンボク監督は、これまで緻密な感情表現と普遍的なロマンスを盛り込みながら、現実とファンタジーのバランスを洗練された形で描いてきた。自身が演出した『太陽の末裔』や『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』が、日本でも多くの支持を集めていることについてこう語った。

「私自身、なぜ日本で好まれるのかを明確に説明するのは難しいのですが、常に“人に対する物語”を大切にしてきました。男女のロマンスだけでなく、他者への思いやり、善と悪の根源的な問い、そしてどう生きるかという価値の問題。そうした普遍的なテーマが日本の方々にも響いたのではないでしょうか」

 作品のジャンルを超えて「人間そのものを描くこと」に重きを置く姿勢が、韓国ドラマの世界的成功を手繰り寄せた重要な要素の一つと言えそうだ。

■チン・ヒョク監督「日韓の長所が噛み合えば素晴らしい化学反応が生まれる」

 TVINGオリジナルドラマの新作『悪党たち』を控えるチン・ヒョク監督は、テレビ朝日と『魔物』を共同演出したことも記憶に新しい。「(『魔物』の)現場では食事がとてもおいしかったんです(笑)。同じ味覚を共有できたことが、文化的な共通点の象徴だと感じました」とほがらかに日本での経験を振り返りながら、日韓の表現文化の違いを興味深く語った。

「脚本を最初に読んだときは“とても日本的だ”と思いましたが、日本の制作側からは“韓国的だからあなたにお願いしたい”と言われました。その感覚のズレこそが面白いと思いました。日本は感情やディテールの描写に優れ、韓国は感情の強度や独立した女性像に強みがある。両方の長所が噛み合えば、素晴らしい化学反応が生まれると思いました」

 さらに、今回のディズニープラスとTVINGの提携について「TVINGの作品がディズニープラスで直接日本に届くというのは、単なる配信を超えた“文化交流の本格的な始まり”だと思います。今後は共同制作という形で、日韓が一緒にグローバル市場に挑む時代が来るのではないでしょうか」とポジティブにコメントした。

■オ・グァンヒ氏「物語は“語り直し”で新しくなる」

 CJENMスタジオを率いるCEOでプロデューサーのオ・グァンヒ氏は、自身が制作に参加した『ソンジェ背負って走れ』をはじめロマンスドラマを数多く手がけてきた経験から、「ヒットの公式」について問われるとこう答えた。

「公式なんてあれば私も知りたいです(笑)。私がいちばん時間をかけるのはキャラクターづくり。視聴者が好感と共感を持てる人物像にするため、作家陣と徹底的に詰めます。よく“クリシェ(お約束)”は避けられがちですが、私はそうは思いません。見慣れた設定でも、そこに少し新しい言葉や視点を加えるだけで“新しい物語”になる。世界にまったく新しい話は存在しません。けれど、語り直しの巧さで物語は生まれ変わるんです」

■イ・ヘヨン氏「作品の“いちばんおいしい部分”に集中する」

 『涙の女王』のようなロマンスから『暴君のシェフ』『スタディーグループ』など、多様なジャンルをヒットに導いたスタジオ ドラゴンのプロデューサー、イ・ヘヨン氏は、「戦略というより、自分が本当に面白いと思う話を脚本にすることを大事にしています。作品ごとに“いちばんおいしい部分”を見極めて、そこに集中する。それが結果的に広い世代に届くのだと思います。きのう、日本で人気のラーメン屋に1時間並んで食べたんですが、本当においしかった(笑)。ドラマも同じで、その作品“本来の味”に独自の工夫を加えることで、視聴者の舌をつかむんです」と、自身の企画戦略を明かした。

■TVING新作オリジナルドラマ続々登場

 TVING×ディズニープラスの日本配信第1弾オリジナル作品となる『親愛なるX』は、不遇な幼少期に始まる地獄から抜け出して高見を目指すため、周囲の人間“X”たちを残酷に踏みにじる主人公ペク・アジン(演:キム・ユジョン)と、彼女を守るために地獄の道を選んだユン・ジュンソ(演:キム・ヨンデ)の切なくも激しい愛の軌跡を描くロマンス・スリラー。

「原作の魅力を損なわず、ドラマならではの新しさをどう出すか」という点について、イ・ウンボク監督は「原作ファンの期待を裏切らないよう、キャラクター性は最大限に尊重しました。一方で、ドラマならではの“感情の深さ”、ビジュアルによる没入感、音楽などによるエンタメ要素を強化しています。視線の誘導や奥行きの演出で観る人の目を止める作品に仕上げています」と語り、「日韓は文化的に近いからこそ、細かな心理の揺れや選択の重みを共有できる。日本の視聴者にも、共感とスリルの両方を味わってもらえると思います」と自信をのぞかせた。

 チン・ヒョク監督が次に挑む『悪党たち』は、金と欲望を描くハードコア犯罪スリラー。「“超精密偽造”を生業とする者たちが、それぞれの欲望を追う群像劇です。善人が一人も出てこないと言っていいほど。何が善で、何が悪か――その曖昧(あいまい)さを描きたかった」と作品を紹介。「私は『主君の太陽』『青い海の伝説』などのロマンス以外にも『シティーハンター』などのアクションも手がけてきました。ジャンルがなんであれ、“人間の感情”を土台にするのは同じ。今回もその姿勢で臨みました。激しい音とカット割りで新鮮さを感じてもらえると思います」と期待をあおった。

 『ロト1等でも出勤します』のオ・グァンヒプロデューサーは「最近のドラマはスケールが大きく、特別な設定が増えています。でも今の時代だからこそ、“小さくても共感できる話”にひかれました」と、“ロト(宝くじ)”という身近な素材にユーモアを加えたいままでにないオフィスドラマであることを強調。「ロトに当たったけれど、会社を辞めて遊んで暮らせるほどの高額当選ではなかった主人公が、少しだけ金銭的に余裕ができたことで、周りの人々に優しくなれたり、自分を見つめ直したりする、主人公の内面的な成長を描いた物語です。今を生きる日本の視聴者にも、共感してもらえると思います」と話した。

 『調理兵、伝説になる』のイ・ヘヨンプロデューサーは、本作がウェブトゥーン原作であることから、漫画大国である日本でも高い関心を集める可能性がある点に言及しつつ、「軍隊という非日常の場で、料理を媒介に主人公がクエストをクリアしていきながら成長するストーリーです。成長はドラマの王道ですし、“料理”は世界のどこでも通じる普遍言語です。“味わい”を視覚化する工夫もしています。原作ファンはもちろん、広く楽しんでいただけるはずです」と話した。

 最後に登壇者たちは、「物語には文化や人をつなぐ力がある。その思いを胸に、世界中の視聴者と新しい物語を共有していきたい」(イ・ウンボク監督)と語り、グローバル市場への強い意欲をにじませた。

 韓国ドラマはブームを経て、いまや日常的に視聴されるコンテンツとして生活に根付いている。今回の提携のように、新作・旧作を問わず多様な作品に触れられる環境が整っていくことで、ファンの裾野はさらに広がりそうだ。
ORICON NEWS

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