<特派員の目>芸術・文化の発信地まで「トランプ色」=西田進一郎(ワシントン)
米ホワイトハウス近くのポトマック河畔に、オペラハウスやコンサートホール、劇場などが一体となった総合文化施設がある。「ジョン・F・ケネディ舞台芸術センター」。年間2200件超の公演が開かれ、200万人が訪れる。
そんな米国を代表する施設が揺れている。発端は、トランプ大統領だ。2月前半に、①理事長を含む理事らを解任し、自ら理事長に就任すると宣言②センターの会長を解任し、大統領特使でもあるグレネル氏を暫定的な会長に据える③理事会の全会一致で理事長に選出されたと表明――したのだ。
センターは、アイゼンハワー元大統領(共和党)が署名した国立文化施設法に基づき設立された。着工に向けて尽力したケネディ元大統領(民主党)を記念する施設として1971年に開館。政府資金と、企業や個人からの寄付、チケット収入で運営されている。大統領による理事らの任命に問題はない。
ただ、トランプ氏は交代を急ぎ、理事の多くを側近らに置き換えた。ウシャ・バンス副大統領夫人▽ボンディ司法長官▽ワイルズ大統領首席補佐官▽保守系FOXニュースのアンカー、イングラム氏――らだ。これまでも大統領の側近らが理事に就任するケースはあったが、全体としては「超党派」が前提だった。これを大きく変えたことになる。
狙いは、支持層の保守派が嫌う価値観に基づく公演を一掃することだ。トランプ氏は、女装したパフォーマーが踊る「ドラッグクイーン」のショーが昨年センターで開催されたことを批判してきた。
芸術や文化に貢献した人に贈る「ケネディ・センター名誉賞」を巡る因縁もある。1期目の2017年、白人至上主義者らの衝突を巡る発言に抗議する一部の受賞者が式典の欠席を表明。トランプ氏らは授賞式などへの出席を取りやめる事態となった。
理事会の「刷新」を受け、予定されていた公演がセンター側によって中止されたり、これらに抗議するプロデューサーやバンドのメンバーらが公演を中止したりするケースが、既に20件を超えている。
トランプ氏は、文化と芸術を「再び偉大にする」と意気込んでいる。実現するためには、価値観や意見が異なる人たちを排除するのではなく、敬意を払い、その表現の場も確保することが必要だろう。
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