トランプ氏が南ア批判動画流す 首脳会談で「白人迫害」訴え巡り

2025/05/22 10:13 

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 トランプ米大統領は21日、南アフリカのラマポーザ大統領とホワイトハウスで会談した。トランプ氏はこれまで南アの少数派白人が「虐殺」されていると根拠なく主張し、援助を停止するなど強硬姿勢を取ってきた。会談では白人迫害の「証拠」だとする動画を上映するなど異例の方法で厳しく批判。一方、ラマポーザ氏は「南アでは犯罪が横行し、黒人も殺されている」などと説き、緊迫した場面もあった。

 南アでは1990年代まで続いたアパルトヘイト(人種隔離)政策により、白人が黒人を差別。その名残で、現在も白人が所有する土地が多く、土地の「再分配」が課題となっている。黒人主導のラマポーザ政権は1月に土地を収用しやすくする新法を成立させた。

 こうした中、トランプ氏は「南ア政府が農家の白人の土地を不当に奪っている」と主張。2月に南アへの資金援助を凍結する大統領令に署名し、今月12日には南アの白人約60人を「難民」として受け入れた。また、南アが議長国を務める主要20カ国・地域(G20)に関する業務の停止も関連部署に指示した。

 21日の会談は約1時間にわたって記者団に公開された。冒頭は融和的な雰囲気で進み、トランプ氏は同席した南ア出身の白人で交流がある著名ゴルファーのアーニー・エルス、レティーフ・グーセン両氏を称賛。ラマポーザ氏は貿易や投資の拡大に意欲を示した。

 だが、記者から白人に関する質問が出たことを契機に雰囲気は一変。ラマポーザ氏が「南アの人々の声に耳を傾けること」を求めると、トランプ氏は「照明を消して、(動画を)再生して」などとスタッフに指示。黒人が群衆に白人の殺害を訴えるなどする内容の動画が約4分間モニターに映し出された。トランプ氏は白人が被害に遭った事件の「記事」とみられる印刷物の束も用意しており、ラマポーザ氏に手渡した。

 これに対して、ラマポーザ氏らは動画に登場したのは野党の政治家で、政権は全く違う考えを持っていると強調。人種差別ではなく治安が問題だとし、犯罪を取り締まるための「テクノロジー」など米国の支援が必要だなどと訴えた。両者の主張は平行線をたどったものの、記者団の取材中にはののしり合うような大きな衝突はなかった。

 第2次トランプ政権では首脳会談の一部を記者団に公開することが慣例となっており、劇場型の外交が展開されている。2月末にはトランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領が記者団の前で激しい口論となった。

 南ア側はトランプ氏からの批判も想定して準備していた様子がうかがえ、トランプ氏を称賛するとともに、投資や貿易などでの協力に焦点を当てた。また白人の閣僚も同席させて備えた。ラマポーザ氏は会談後、「非常に良かった」と振り返った。11月のG20首脳会議へのトランプ氏の参加にも期待を示したが、トランプ氏は明言しなかった。

 英BBCは会談について「ラマポーザ氏はテレビが中継する中でトランプ氏の待ち伏せ攻撃に遭ったが、巻き込まれることなくエレガントに自国の現状を説明した」と指摘した。【ワシントン松井聡】

毎日新聞

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