タイ副首相が首相代行に 職務停止の首相は徹底抗戦で混乱長期化か

2025/07/03 20:12 

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 タイで3日、憲法裁判所から職務停止を命じられたペートンタン首相の職務代行にプンタン副首相が就任した。カンボジアとの国境紛争に端を発した今回の問題では連立与党の一部が離脱。ペートンタン氏は徹底抗戦の構えで、政治の混乱収束のめどは立っていない。

 6月中旬にペートンタン氏とカンボジアのフン・セン前首相の通話音声が流出し、問題が大きくなった。ペートンタン氏は以前から家族ぐるみで親交があったフン・セン氏を「おじさん」と呼んで親しさをアピールする一方、タイ軍幹部を身勝手だと断じた。カンボジアにおもねっているとも取れる内容で、タイ国民の間に一気に反発が広がった。

 タイの司法にはかつての軍事政権が指名した裁判官が残り、旧政権勢力が影響力を持っているとされる。2024年8月にも、憲法裁が閣僚人事を巡って倫理上の違反があったとして、当時のセター首相を解職。「司法クーデター」とも呼ばれ物議を醸した。

 また背景には、ペートンタン氏の父であるタクシン元首相(在任01~06年)の時代から続く政治対立もある。セター、ペートンタン両政権は23年の下院総選挙後、長くタクシン氏と敵対関係にあった親軍保守派の政党と手を組んで発足した。当初から基盤は盤石ではなく、セター氏解任にはタクシン氏をけん制する狙いがあったとみられる。その後も勢力間の綱引きは水面下で続いてきた。

 今回は与党第2党が連立から離脱したものの、ペートンタン氏の「タイ貢献党」など与党は下院(定数500)の過半数をかろうじて維持している。

 一方、6月28日にバンコク市内で開かれた抗議集会には保守層を中心に2万人ほどが集結した。主催団体の主要メンバーには反タクシン派だけでなく、たもとを分かった元タクシン支持者もおり、「首相退陣」を訴えた。団体は8月中旬にも集会を開く予定で、揺さぶりをかける。

 憲法裁の判決には1カ月以上かかるとみられ、この間は政治空白が続く。解職が言い渡された場合、連立内から新首相を擁立するか、解散総選挙に踏み切るかの選択を迫られる。

 さらに混乱が深まれば、軍が介入してクーデターに乗り出すのではとの懸念もくすぶる。ただタマサート大講師のプラウィット・ワタナスク氏(政治学)は「憲法裁が首相を解職できるのならクーデターを起こすまでもない」と指摘。「保守派や反タクシン派はペートンタン氏をたたく機会を待っていたのだろう。混乱の長期化は避けられない」と話す。【バンコク武内彩】

毎日新聞

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