東南アジアなど世界各地の抗議デモで、若者らが日本の人気漫画「ＯＮＥ　ＰＩＥＣＥ」（ワンピース）に登場する海賊旗を、シンボルとして掲げるケースが相次いでいる。インドネシアでは警戒した政府が掲揚は刑事処罰の対象になると警告した。人々は旗の何に引きつけられるのか。

　◇「反腐敗」の証しに

　今年８月、独立記念日を前にインドネシアの一部の家や車の前に掲げられたのは、紅白２色の国旗ではなく、「麦わら帽子をかぶったドクロの旗」だった。この流行は交流サイト（ＳＮＳ）を通じてインドネシア全土に広がり、自宅で掲揚した男性は地元紙テンポ（電子版）に「長年、政府の対応に不満を抱いてきた国民の抗議の証しだ」と語った。

　ワンピースは、主人公の少年モンキー・Ｄ・ルフィが「麦わらの一味」の仲間たちと海賊王を目指して世界中の海を冒険する物語だ。腐敗した政府や独裁国家に立ち向かい、抑圧に苦しむ人々を救い出すエピソードも複数あり、主人公たちの船に掲げられた海賊旗が、政府に憤りを持つ若者の共感を呼んだとみられる。

　インドネシア当局は海賊旗を掲揚した市民の家宅捜索を行ったほか、複数の政治家が刑事処罰の対象になると警告し、掲揚をやめるよう国民に呼びかけた。これに対し、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は８月上旬、「表現の自由の侵害だ」との声明を出した。

　ただ、再三の政府の警告にもかかわらず、８月下旬には国会議員の高額手当に反対する大規模抗議デモでも、海賊旗が掲げられた。

　◇国境を超えて拡散

　この動きは国境を超えて広がり、９月にネパールで１万人以上の若者が政府の検閲や腐敗に抗議したデモでも、ワンピースの海賊旗が使用された。デモは警察との衝突で少なくとも３０人以上が死亡し、首相の辞任にまで発展。デモ参加者たちが突入した政府庁舎や国会議事堂が集まる宮殿の門にも海賊旗がかけられた。

　フィリピンの首都マニラでも９月下旬、政府の大規模汚職疑惑に対する抗議デモが発生し、再び海賊旗が登場した。ある参加者は地元紙「マニラ・ブレティン」に「人々を奮い立たせ、悪と戦う希望と団結の象徴だ」と話し、別の参加者は「ワンピースが私に価値観や道徳を教えてくれた」と語った。

　尾田栄一郎さんによる同作は、「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」としてギネス世界記録にも認定され、国内外の累計発行部数は５億部を超える。【バンコク国本愛】