餓死した女児は生まれたときより痩せていた 飢餓が兵器となったガザ

2025/10/08 06:00 

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 生後5カ月の女児、ザイナブ・アブハリーブちゃんは7月、母親の腕の中で静かに息を引き取った。死因は餓死だった。病院に向かっていたが間に合わなかった。

 パレスチナ自治区ガザ地区では食料搬入が厳しく制限され、栄養失調による子供の死は後を絶たない。これまでに150人以上の子供が命を落とした。

 「イスラエルの封鎖が、ザイナブを殺した」。取材に応じた母親は、電話口で涙を流した。

 ザイナブちゃんは2月15日、南部ハンユニスのナセル病院で生まれた。

 体重は2900グラム。健康に問題はなく、ふっくらしていた。戦火の下に生まれた小さな希望。家族はイチゴ模様のベビー服を着せ、みんなで誕生を祝った。

 だが、3月に入り、イスラエルはガザ地区へのすべての物資搬入を停止した。

 牛乳アレルギーを持つザイナブちゃんに必要なアレルギー用の粉ミルクは、4月には手に入らなくなった。母親のイスラアさん(31)も妊娠中から十分な食事が取れず、母乳はほとんど出なかった。

 生後50日を過ぎたころから下痢や嘔吐(おうと)、発熱を繰り返し、急激に痩せ細っていった。両親は病院に何度も通い、点滴や栄養剤の投与を受けさせた。

 しかし、医師からは「ガザには十分な薬も施設もない。海外で治療を受けるしかない」と告げられた。両親は世界保健機関(WHO)の仲介によるガザ域外での治療を申請した。

 7月25日。ザイナブちゃんは避難先のテントの中で激しく泣き続けた。異変を感じたイスラアさんが炎天下を病院へ急ぐ途中、呼吸が止まった。体重は2キロ以下で、生まれたときより減っていたという。

 「ガザの域外で治療が受けられる」。承認の連絡が届いたのは、死から4日後だった。「あと少し早ければ、助かったかもしれない。これはイスラエルによる戦争犯罪だ」とイスラアさんは声を詰まらせた。

 ナセル病院の小児科医、アハマド・ファラさん(53)によると、4月ごろから栄養失調の患者が増え、7~8月には2カ月間で延べ約2万8000人に達した。半数は深刻な状態で、2割は入院が必要だった。必要量の1割にも満たない支援しか届かず、「飢餓そのものが兵器として利用されている」と訴えた。

 イスラエルは5月下旬以降、米国と主導して設立した「ガザ人道財団」を通じて食料を配布している。だが、配布拠点周辺では軍の発砲などによる犠牲者が相次ぎ、食料を受け取りに来た住民2500人以上が死亡した。

 国連の支援も続くが搬入量は厳しく制限され、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、9月1~28日に届いた食料は必要量の4分の1にとどまった。このうち約8割は輸送途中で略奪されたという。国連は北部ガザ市で「完全に人為的な飢饉(ききん)」が発生したと認定し、来年6月までに5歳未満の子供4万人以上が死亡する可能性があると試算する。

 ガザではすでに450人以上が飢えで命を落とし、150人を超える子供が含まれる。国連が警鐘を鳴らす中、イスラエルは「誤ったデータだ」として、なお飢饉の存在を認めていない。【エルサレム松岡大地、カイロ金子淳】

毎日新聞

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