韓国でも闇バイト 地方の若者「出稼ぎ」でカンボジアへ 背景に格差

2025/10/27 05:30 

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 韓国で「高収入の仕事がある」などと誘われてカンボジアに渡航した後、拉致・監禁される事案が多発し、暴行による死者も出ている問題で、韓国の地方に住む20~30代の若者との連絡が途絶えたとの申告が相次いでいる。専門家からは、過度な「ソウル一極集中」により、地方での雇用の機会が大きく制限されていることがあるとの見方が出ている。

 カンボジアに渡航した若者の多くが、周囲に「出稼ぎに行く」と事前に伝えていた。自ら不法行為に加担する人もいれば、犯罪組織に監禁され、特殊詐欺の「かけ子」などをさせられたり、不法賭博サイト運営のために自身の通帳口座を貸すことを強要されたりする人もいるという。

 中央日報などによると、犯罪組織に人材を送るブローカーは、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」や求職サイトなどを通して、「IT関連業務 月最高1500万ウォン(約160万円)」「衣食住も用意してある」などの好条件を提示し、勧誘している。

 ソウル新聞によると、南東部・慶尚北道(キョンサンプクド)と大邱広域市では、昨年から今年10月15日時点までで、20~30代の若者の行方不明申告が22件あったという。今年8月、カンボジアで犯罪組織に監禁され、「暴行や拷問に伴う激しい痛みによる心臓まひ」で死亡し遺体で発見された韓国人男子学生(22)も、南東部・慶尚北道出身で、西部・忠清南道(チュンチョンナムド)の大学に通っていた。

 ブローカーが、社会的信用性が低かったり、借金を抱える若者や、社会人になったばかりの人をターゲットにしているとし、「若者たちの切迫した気持ちを狙っている。表面的には海外の凶悪犯罪だが、根は国内の雇用の構造的問題だ」と指摘した。

 韓国ではソウルとその周囲の京畿道に人口の約5割が住む。日本は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に人口の約3割が集まっているのに比べると、その割合の高さがわかる。地方に良質な就職先が少ないことも一因とされている。雇用情報院が今年5月に発表した報告書によると、2013~23年に増えた雇用数全体のうち、46・8%が首都圏で生まれていた。

 韓国政府は15日、政府の代表団をカンボジアに派遣し、外務省の金珍我(キムジンア)第2次官らは16日、フン・マネット首相らと面会。韓国警察庁とカンボジア警察庁間では、カンボジア警察内に連絡担当官として韓国の警察官を派遣する「コリアデスク」設置構想なども協議が進められている。

 一方、カンボジアやミャンマーを特殊詐欺の拠点とし、日本から若者などをリクルートして働かせる事件もここ数年、相次いで起きている。今年2月には愛知県出身の男子高校生が、ミャンマー東部で特殊詐欺に関与させられていたとしてタイ当局に保護された。

 韓国の情報機関、国家情報院出身で国際的な特殊詐欺に詳しい蔡聖埈(チェ・ソンジュン)・西京大教授は、こうした犯罪の仕組みを「東アジア全域で共通する新たな犯罪の生態系」と指摘し、日韓両国とカンボジアなどの捜査協力の必要性を訴えている。【ソウル日下部元美】

毎日新聞

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