故郷の火災に「何もできない」 在外香港人のもどかしさ 当局は圧迫

2025/12/06 14:40 

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 香港で発生した高層住宅群の火災をもどかしい思いを抱えながら見ている人たちがいる。民主化運動に関わったことで当局ににらまれ、日本など海外で生活する香港人だ。火災に襲われた故郷の力になりたいが、当局の対応への批判に対して「火災に乗じて香港を乱す反中分子」と処罰をちらつかせる香港には戻れない。そうした中、在外香港人たちは6、7日、日本など世界各地で追悼集会を開く。

 11月26日の火災発生当日、炎を上げて燃える高層住宅の映像に、台湾に暮らすSKYさん(32)は言葉を失った。現場の新界地区大埔は海に面した住宅街で、子どもの頃は自転車に乗って出かけたこともある。「香港社会は効率的で、生活の質を重視しているはずだった。こんな火災が起きるとは想像できなかった」

 2019年に民主化を求める抗議運動が起きると、留学先の台湾で参加者を支える香港人らの組織「香港辺城青年」に参加し、現在は秘書長を務める。香港国家安全維持法(国安法)に基づく社会統制が敷かれる香港に戻れば、当局に拘束されるリスクがある。

 香港人が困難に直面して発揮する互助の姿勢はシンボルの山にちなんで「獅子山精神」と称される。19年の運動でも、参加者に物資を提供する市民が相次いだ。SKYさんは火災で「在外香港人として、悲しみと何もできない強い無力感」に襲われた。

 ただ、インターネットで見つけた、ある光景に励まされたともいう。自発的に集まった若者らがバケツリレー方式で支援物資を運ぶ姿だ。「ひどい災害、さらに強い圧力がかかる中でも、6年前と同じように誰かを助けようとする市民がこんなに多くいた」

 香港民主派で元区議の葉錦龍さん(38)=東京都在住=は火災発生当初からユーチューブやX(ツイッター)などを通じて、当局の対応の問題点を指摘し続けている。

 火災では改修工事の不正や当局の不十分な監督体制に批判が挙がっている。葉さんは行政と業者の癒着などを指摘してきた民主派議員が議会から排除されたことでチェック機能が失われたことが悲劇の遠因にあるとみる。「現場に支援に駆けつけたいが、情報発信をしていくしかない」

 香港人の団体によると、6、7日には日本や台湾、米欧などの20カ所以上で追悼集会が開かれる。東京・渋谷で集会を企画する葉さんは「海外で無念さを抱える香港人は多い。応援してくれる日本人らと一緒に、一人ではないと励まし合いたい」と話した。

 一方、香港政府やそのバックにいる中国政府は在外香港人の当局批判に神経をとがらせる。中国政府の出先機関「駐香港国家安全維持公署」は3日、「外国の敵対勢力と香港を乱す反中分子」が火災を巡り扇動しているとして「どんなに遠くにいても必ず罰する」との声明を発表。「香港を乱す言動は全て記録し、生涯追及する」と警告した。【台北・林哲平】

毎日新聞

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