武装勢力の拠点に響く長渕剛の「乾杯」 元プロ歌手が歌った抵抗

2026/07/05 05:01 

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 聞き慣れたメロディーに、ビルマ語の歌詞が乗っていた。

 ミャンマー東部カヤー州。少数民族武装勢力「カレンニー民族人民解放戦線(KNPLF)」の拠点にあるゲストハウスでの夜だった。組織を率いる議長の家族や護衛役の兵士らが出入りする建物の一角で、一人の男性がギターを抱えていた。

 弾いていたのは、長渕剛さんの「乾杯」。促されるまま、一緒に歌った。

 男性の名は、ミンエインメッシンさん(37)。2021年に国軍のクーデターが起きるまでは、バーやホテルで歌うプロのミュージシャンだった。本人は「有名というほどではない」と話すが、テレビ出演の経験もある。ギターを弾き、自分で曲も作っていた。

 取材時は前線から離れた拠点にいた。議長の妻の身の回りの世話をし、料理も手伝う。昼は台所に立ち、夜になるとギターを抱える。

 そんな日常の一方で、前線を回り、兵士たちの前で歌って士気を高める役割も担う。各地の民主派勢力から依頼を受け、それぞれの戦いを歌にすることもあると話した。

 クーデター後はヤンゴンで抗議デモに加わり、やがて武装勢力側に身を置くようになった。当時の妻は警察官だった。その選択を巡って別れ、生後5カ月だった息子とも離れた。今は家族との連絡を絶っているという。

 かつて歌っていたのは、ラブソングが中心だった。だが、クーデター後に作った40曲以上のうち、ラブソングは1曲だけだ。ほとんどは「革命」の歌になった。道半ばで倒れた仲間を「暗闇を照らす星」として歌う曲もある。

 あなたは兵士なのか、ミュージシャンなのか。そう尋ねると、「両方だ」と答えた。

 軍事訓練を受け、前線では衛生兵の助手として動くこともある。ただ、直接の戦闘経験はまだないという。

 「兵士は前線で戦う。私たちは耳を通じて、人の心の中で戦う」

 銃弾が届くのは1人かもしれない。だが、音楽には人の考え方を変える力がある。ミンエインメッシンさんはそう信じている。

 歌い終えると、ビールで「乾杯」した。武装勢力の拠点で口ずさんだ歌は、少し違って耳に残った。【小泉大士】

毎日新聞

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