父ちゃんは看板の影に… 忘れられたかっぱの家族、再び町の人気者へ

2025/01/04 20:09 

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 海沿いの道を車で走っていると、それは突如現れた。

 ここは愛知県西部に突き出した知多半島の南部に位置する美浜町。半島の東海岸、国道247号沿いで私が目にしたのは、かっぱの「花ちゃん」。

 手には大きな鯛(たい)を持ち、背中には「花ちゃん娘カッパと申ます」。

 そこから南に3キロほど下った海岸沿いには、つぼを担いで立つ「ゆり子母ちゃん」。さらに西海岸へと回って野間(のま)海水浴場を眺めると、「野間太郎父ちゃん」が右手を突き上げて立っている。

 かっぱは鬼やテングなどと並ぶ日本の有名な妖怪。私の前に現れたのはもちろん、生きたそれでなく、いずれも高さ1・5~2メートルほどのコンクリート像だ。

 これだけじゃない。高速船乗り場がある河和港観光総合センターの敷地内には、親子かっぱ(高さ約80センチ)、その隣には「娘かっぱの婿さんと子どもたち」(同)もいる。

 このかっぱたち、一体誰が、何の目的で作ったのか。

 「私にとってかっぱ像は、ノスタルジックな感傷に浸れる場所です」。こう話すのは、市民団体「かっぱの家族」の荒井勝彦さん(65)だ。

 町史や「かっぱの家族」によると、親子3体は1956(昭和31)年、町観光協会が海水浴客を呼び込もうと、河和口、河和、野間の三つの海水浴場に設置した。水の妖怪であるかっぱは泳ぎが上手なことから、水難事故防止や子どもの水泳上達を願ってキャラクターに選ばれた。

 荒井さんも幼少期、「ゆり子」に見守られながら浜で遊んだ。荒井さんにとってかっぱ像は、元気に泳いだかつての海を象徴する存在という訳だ。

 かっぱ像の設置以降、それぞれの浜では毎年、毎日新聞社主催で「かっぱカーニバル」が開かれるなど大勢の海水浴客などでにぎわった。だが、護岸整備などで浜が狭くなり、客は次第に減少。3海水浴場のうち河和と河和口は2007年までに順次閉鎖された。

 母娘かっぱはその役目を終え、父ちゃんかっぱも大型の案内看板の影に追いやられてしまうなど、忘れられた存在になっていった。

 そんな状況を09年に地元紙が報じると、心を痛めた町出身の夫婦が「家族を一緒に」と町長に提案。夫婦からの寄付金で10年、親子が寄り添った銅像が建立され、翌年には孫らも加わったのだ。

 荒井さんらの「かっぱの家族」も、これを機に結成された。メンバーはかつての浜のにぎわいを知る50~60代の4人。

 以前から地域活性化に取り組んできた有志で、塗装が剥げ、色あせた花ちゃんたちの「エステ」(お色直し)を担いながら、今も地元の子どもたちに地域の歴史や魅力を伝える活動を続けている。

 「かっぱをきっかけに町に来てくれる人が増えればうれしいし、この町の子どもたちも地元への愛着を深めてもらいたいよね」と荒井さん。

 時代を超え、かっぱ像は人と人、人と町とをつなぐ架け橋になっている。【町田結子】

 ◇かっぱ像

 【娘】名鉄河和線「河和口駅」すぐ前、【母】同「河和駅」下車、南方に歩いて約7分の海岸沿い、【家族】同駅下車、歩いてすぐの河和港内、【父】名鉄知多新線「野間駅」下車、西に歩いて約25分の野間海水浴場。いずれも見学無料。

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