小2のバリスタ、大会で優勝 原点はハニーラテ 夢は「生産者守る」
小学2年生の小澤俊介さん(8)は、大学生を対象にしたバリスタの大会で優勝。焙煎(ばいせん)、ブレンドした豆を自らのブランドとして販売もしている。
九九はたまに間違えるが、寸分たがわぬ抽出で、コーヒー通をうならせる少年の原点は「ハニーラテ」だったという。
◇ただ1人、ミスを見抜く
2022年10月、東京都江東区にあるカフェに訪れた母の舞奈美さん(39)は、俊介さんが初めて飲むコーヒーとして、蜂蜜入りの「ハニーラテ」を注文した。「子どもでも飲めそうだ」と考えたからだ。
翌月、再び店を訪れ、同じラテを飲んだ俊介さんは「前より苦い」と飲み渋った。
店主の中楯聡さん(37)は驚いた。
この日、焙煎を少しミスしたため、抽出方法を調整して、コーヒーを提供していた。他の客は気づかない違いを小学生が見破った。
「この子は間違いなく味がわかる。ならば最高にポジティブな味わいにどう反応するだろうか」
興味を抱いた中楯さん。おわびにと、最高品種「ゲイシャ」のコーヒーをサービスした。
俊介さんは、ストレートでぐびぐびと飲みほし、甘みや酸味といったおいしさを的確に表現した。
そして、コーヒーの魅力に取りつかれ、中楯さんを師匠と仰ぎ、歴史や入れ方の基礎を学び始めた。
◇悔しさから始めたコーヒー日記
「コーヒー好き」から、バリスタとしての道を歩み始めたきっかけには、ある失敗があった。
中楯さんの店の常連客のたっての希望で俊介さんはコーヒーを抽出したものの、お湯を19㏄多く注いでしまう。
中楯さんからは「致命的なミス。入れ直してもお客の時間を奪い、豆をムダにする」とダメ出しを受けた。
悔しさから、コーヒー日記を書き始めた俊介さん。1ページ目には、こう記されている。
<あじがぼけた。おいしくなかった。人にのませたくなかった>
その後、水を分量通りに注ぐ練習を重ねる。日記には回数を記した「正」の字が並んだ。中楯さんは「野球で言ったら素振り。あそこまでやる人間はそうそういない」と舌を巻く。
◇九九の八の段、たまに間違える
焙煎は専門店の機械を使わせてもらって覚えた。豆のひき具合は「コーヒーは酸味、甘み、苦み、渋みの順で出てくる」という中楯さんのアドバイスを頭にたたき込んだ。
昨年、横浜市で開かれたコーヒーの抽出技術を競う「University Brewers Cup」では大学生ら11人を制し、優勝した。
これまで、カフェを借りてコーヒーを提供する「期間限定ストア」を4回開催し、好評を博した。
大会の優勝で出店権を得たため、5月には横浜市内で開かれるコーヒーマルシェでも腕を振るう。
舞奈美さんから見れば、俊介さんはゲーム「マリオカート」や鉄道玩具のプラレールが好きな「至って普通の小学生」。
九九の八の段はたまに間違えるが、コーヒーを究めるため、豆を量る計算はさらっとこなす。そんな息子の姿に、「やりたいことはやらせようと見守ってきただけです」と笑う。
算数だけでなく、理科や社会の知識を身につけ、「思わぬ副産物」もあったという。
◇「おいしいコーヒーを広げたい」
俊介さんにとって、コーヒーの魅力とは何か。
「自由なところ。渋みとか苦みをみながら、もう少しひき目を細かくした方がいいかなとか、自分で考えるところが楽しい」
自ら焙煎した豆を「オーロラ」「しののめ色」などと名付けて販売する。
語彙(ごい)力は大人にかなわないが、色見本帳を見て味や香りに合ったイメージを探し、言葉を選ぶ。
イベントではお手製のポスターを展示する。豆の産地のインドネシア、中国・雲南の地図や生産者を紹介し、社会情勢も書き込む。
将来の夢を、こう描く。
世界中のコーヒー農園の賃金を改革して生産者を守りたい。師匠から教わったレシピを自分の弟子に教え、おいしいコーヒーをどんどん広げたい。
師匠の中楯さんについても「バリスタの世界大会でチャンピオンになってほしい」という。【太田敦子】
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