注目の「スマート農業」 農家が実感したAI導入の「効果」とは
人工知能(AI)やITを活用して農作業を効率化・省力化する「スマート農業」が注目されている。宇都宮農業協同組合(JAうつのみや)も今年度からAIを活用した「栽培管理支援システム」を導入し、組合員向けの営農指導に活用を始めるとともに、同システムに対応する農業機械の購入費を補助する事業も始めている。スマート農業が注目される背景や、これからの農業はどう変わるのかを取材した。【小林祥晃】
◇肥料削減/成育の「時期」誤らず
「夏の異常な高温も(AIによる)成育予測機能のおかげで収量も品質も落とさずに乗り切れた。必要な肥料の量が正確に分かるので無駄が減り、コストも削減できた。これからの農家にとって、情報は武器です」。昨年12月にJAうつのみやが開催したスマート農業の実演展示会。約80人の組合員を前に、埼玉県でコメを生産している小倉祐一さん(44)が、そう強調した。
小倉さんは埼玉県加須市でコメや小麦を生産する農家。2017年に法人化し、「株式会社おぐらライス」の代表を務める。小倉さんは一昨年から「ザルビオ」という栽培管理支援システムを導入してスマート農業を実践。早くも成果を上げていることから、同JAが実演展示会の参加者向けに講演を依頼した。
ザルビオは、人工衛星が撮影した農地の上空写真を基に、AIで作物の成育状況などを監視・分析し、土がやせている地点や肥沃(ひよく)な地点を探し出し、パソコンなどに画像で表示してくれる。そのデータを最新鋭の田植え機やドローンなどに取り込めば、肥料を必要な地点に必要なだけ散布(施肥)することもできる。
当初、小倉さんは「化学肥料の使いすぎを避け、コスト削減につながれば」と考え、同システムを導入した。しかし、思わぬ「収穫」があった。毎日の気温や降水量などのデータから成育を予測する機能のおかげで、タイミングを誤らずに穂肥(ほごえ)(もみを充実させるために出穂直前に行う追肥)ができたのだ。
また、AIは病害や害虫の発生時期も予測する。昨年はカメムシの大量発生が問題になったが、適切な時期に防除が行えたため、被害を最小限に抑えたという。小倉さんは「異常気象になると今までの経験や勘が役に立たないが、AIのおかげで昨年の異常な高温にも対応できた。栽培経験のない新しい品種に挑戦する時にも、システムで得られるさまざまな栽培情報が役立った」と振り返った。
会場では栽培管理支援システムのデモ展示や、システムと連携したドローンや田植え機など、最新の農業機械の展示や試乗も行われ、来場者が興味深そうに見て回っていた。宇都宮市の農業、樋口克之さん(55)は「栽培管理支援システムはぜひ使ってみたい。コメ作りは年間を通して作業が多く、やり忘れたり、タイミングを逃したりすることもある。費用はかかっても、作業の負担が軽くなるのは大きな魅力だ」と話した。
イベントを企画したJAうつのみやの須藤政治・米麦課長は「こうした新しいシステムの利点を多くの農家に知ってほしいと思い企画した。農業従事者が減り、大規模化が進む中、親世代の長年の勘や経験を、見える化・データ化してくれるシステムは、後継者にとっても、新たな就農者とっても大きな助けになる」と期待を寄せている。
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