福岡沖玄界地震から20年、薄れる記憶 「警固断層帯」の脅威

2025/03/20 08:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 都市直下にある断層が地震を引き起こしたら――。博多湾から人口が密集する福岡市中心部を抜けて南東方向に貫く活断層「警固断層帯」。陸側と海側から成り、海側の断層が2005年の福岡沖玄界地震を起こした。20日で発生から20年。かつて「地震が少ない」とされた九州で最大震度6弱を経験した衝撃は色あせ、記憶は薄れつつある。だが、専門家は「20年前の地震の影響は残り、脅威はある」と警鐘を鳴らす。

 警固断層帯は、福岡市東区志賀島沖の玄界灘から博多湾、同市中央区、南区、福岡県の春日市、大野城市、太宰府市を経て筑紫野市に至る約55キロの断層帯だ。海側の「北西部」と陸側の「南東部」から構成され、陸側では80万人超が住む。

 福岡沖玄界地震は北西部の断層によって引き起こされたが、震源から約30キロ離れた福岡市中心部ではオフィスビルのガラスが割れるなどの被害が発生し、倒壊したブロック塀の下敷きになって1人が死亡した。

 懸念されるのは、人口が密集する南東部が地震を引き起こすことだ。06~07年に大野城市で掘削調査を行った産業技術総合研究所の宮下由香里氏によると、南東部の断層の平均活動間隔は3100~5500年とされ、最新の活動は3400~4300年前。「もともと、次の地震がいつ起きてもおかしくない『満期』の断層だった」と語る。

 北西部の断層の活動が南東部に影響を及ぼす可能性も指摘される。やはり警固断層帯を調査した経験を持つ、東北大の遠田晋次教授(活断層研究)によると、05年の地震で北西部の断層が動き、近接する南東部の断層の端に強い圧力を与えているという。

 国土地理院によると、05年の地震で北西部の断層は70センチ動いた。遠田教授は「地面は微妙な均衡を保っており、1メートル近くも動くとバランスを崩し、周囲で地震が起きやすくなる。能登半島でも、24年1月の地震の震源となった断層が動いた影響で、その後、近くの断層が別の地震を引き起こした」と話す。

 警固断層帯の北西部の地震活動は今も続いており、気象庁によると、福岡沖玄界地震前の04年は0回だったが、以降は毎年観測され24年は41回観測された。遠田教授は「今後10~30年で南東部でも地震が起きるかは分からないが、起こることを前提とした対策が重要だ」と強調する。

 一方、足元の断層の調査が十分かといえば、そうとはいえないのが現状だ。断層が引き起こす地震は、震源が比較的浅いため、断層近くは揺れが激しい一方、少し離れると揺れは小さくなる。断層の位置と揺れを増幅する地盤の軟弱さを知ることが防災上有効だが、警固断層帯の南東部は開発が進み調査は容易ではない。宮下氏は「南東部の端は断層が枝分かれしていると推定されるが、実際に確認されていない」という。

 もっとも、活断層の調査が進んでいないのは全国的な課題だ。政府の地震調査研究推進本部は、警固断層帯を含む114の活断層を主要活断層帯と選定して一通り調査したが、過去の断層の活動を調べるために溝を掘って地層を露出させる「トレンチ調査」などに手間や費用がかかり、地震発生履歴や平均活動間隔などの基礎データも得られていないところもある。

 宮下氏は「断層の位置を正確に知ることが、自宅や勤務先、避難所の危険性などを知り、対策を取ることにつながる」と調査の意義を強調。一般の人に対しても、調査などを基に作られた自治体の「揺れやすさマップ」などを活用した対策を呼びかける。【森永亨】

毎日新聞

社会

社会一覧>