オオワシ「山本山のおばあちゃん」、宗谷岬で探せ! 北帰を追う

2025/03/28 07:15 

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 28シーズン連続で渡来し、8日に山本山(滋賀県長浜市湖北町)から北帰した雌のオオワシ「山本山のおばあちゃん」。山の上空で20回ほど旋回して見送りのファンに別れを告げ、稜線(りょうせん)を越えていった。その先、どのようなルートで繁殖地のロシア・オホーツク海沿岸まで帰っていくのか。長年の関心事に、湖北野鳥センター所長の植田潤さん(55)から「北海道の宗谷岬で一緒におばあちゃんを探しましょう」と提案があった。宗谷岬? 本土最北端の? これは面白そうだと飛びついた。【長谷川隆広】

 ◇「眼力」頼りに

 宗谷岬は日本で越冬した多くのオオワシが最後に通過する地点。知床など道東で過ごした個体や日本海側で過ごした個体などが北帰シーズンに東西から集まり、約40キロ先のサハリンへ飛んでいく。琵琶湖から北上していくおばあちゃんも最後にここを通るはず。そう信じて北帰翌日の夜、フェリーに乗り、北海道へ向かった。

 宗谷岬やその周辺から北に渡っていくオオワシは多い日には数百羽にも上る。その中からたった一羽を見つけ出すのはまさに「夢」の話だ。頼りは現地で合流した植田さんの眼力。おばあちゃんは比較的くちばしや体が大きく、右羽下部や胸元に白い羽が1本生えているなどの特徴がある。専門家でなくてもかなり近くを飛べば体格、顔つき、飛び方などでほかの個体と見分けがつく。ただ、正確に判別するには、個体ごとに異なる羽の内側の模様を照合する必要がある。そのため手当たり次第にオオワシを撮影するのが私の役目だ。

 調査期間は12~15日の4日間。おばあちゃんの北帰スピードに関しては諸説あるが、植田さんの推測は「今年は北帰が遅かったので急ぐかも。早ければ4日ほどで宗谷岬まで来るのでは」。8日の北帰から4日後となる12日早朝、ワクワクしながら宗谷岬でカメラを構えた。天候に恵まれ、午前8時ごろからオオワシがどんどん渡り始めた。植田さんが「あれは違う。これも違う」と判別。9、10時台には数が多すぎて撮影が追い付かない時もあった。

 途中で近くの丘陵地に上がると、オオワシが東西から続々と集まってくる様子が見えた。おばあちゃんが来るなら西からだ。次第に数を増やし、一時60羽を超えるオオワシが丘の上で旋回し「鷲(わし)柱」となった。両翼2・5メートルにもなるオオワシが一斉に頭上を飛ぶ姿は圧巻で、植田さんが撮影した動画には「うわー」「これはすごい」と我々の驚く声ばかり入っていた。

 ◇オオワシ、延べ1000羽以上撮影も…

 宗谷岬で千葉から来た大学院生、吉田弦輝さん(24)と出会った。春休みを利用して10日間、渡っていくワシを数えているという。吉田さんの計数によると、この日に渡ったオオワシは800羽超。同じく大型のオジロワシを含めると1000羽超だった。数え切れなかった分を含めるともっと多く、「おばあちゃん、ここを通るかも」と期待が膨らんだ。

 13、14日は悪天候。渡り始めたのに戻ってくるオオワシもおり、丘の上に止まって次のタイミングをうかがっていた。強風の中、駐車場に「滋賀」ナンバーの車が止まった。長浜から来たという夫婦で、野鳥を観察しながら北海道を回っているという。琵琶湖ではおばあちゃんの撮影もしているそうだ。オオワシが飛ぶ姿を見て「きれいですね」としきりに感心していた。

 調査最終日の15日。早朝は吹雪だったが、天候が回復し始めた午前8時ごろから急にオオワシが渡り出した。観察する植田さんが「似てる」と何度か声を上げたが、決定打はなし。ペアで上下や前後に並んで飛ぶディスプレーフライトも見られ、おばあちゃんもどこかでパートナーと合流しているのだろうかと思いをはせた。

 期間中に撮影したオオワシは延べ1000羽以上。21時間かかる帰りのフェリーの中で、ひたすら羽の模様を照合した。残念ながら模様が一致するオオワシはいなかった。ただ、撮影した一羽一羽に越冬のドラマがあり、無事に帰っていくのだと思うと、胸に迫るものがあった。それが越冬を見守ったおばあちゃんならなおさらだろう。いつか宗谷岬でその姿を見つけたい。その思いを強くして長浜に戻った。

毎日新聞

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